「今の季節に読まなければ何時読むんだ?」てな題名なので手に取ったエッセイ集。
毎度お馴染みの「久世節」で、ネタ的には使い古されたものばかりだっが、それでも私は久世光彦が、こだわっているモチーフが好きなので面白く読めた。
「死」「女」「狂気」を描きながら、上品な感じが好みなのだ。
久世光彦の作品は谷崎潤一郎『陰影礼賛』に通じる上手さがあると思う。
冬の女たち
この頃は、新しい人に出会うことは少なくなったが、自分の中の今まで知らなかった気持ちに出くわして、驚くことがよくある…。人間の「死」の影を甘美に描いたエッセイ。
『週刊新潮』の連載をもとに加筆・再構成。
アマゾンより引用
感想
久世光彦の作品は、ちょっぴり湿り気を帯びた日本家屋の和室で読むか、そうでなければ今時のカフェでない昭和の喫茶店で読むのが似合いそうに思う。どちらも「ほの暗い」というところがポイント。
明るくもなく、暗くもない薄闇が似合いそうな作品が多いのだ。多湿な日本の風土に、ほどよくマッチしているところがツボなのだ。
ちなみに今回のエッセイ集を読んでみて発見したことが1つある。
久世光彦が「物」や「人」を文章は、なんとなく思慕の情に溢れている…ってことだ。まるで恋文を読んでいるような錯覚に陥ることがあるのだ。
題材そのものが大好きだから、焦がれているから書いている……というような風情についつい引き込まれてしまうのだろうということに気づいた。
久世光彦の筆にかかると、男も、女も、物も、二割り増しは艶っぽくなるようだ。
ちなみに、このエッセイ集には「死のある風景」という副題がついていて作者が、年を重ねたことで「死」の捕らえ方が変わってきたという話が書いてあった。
「死」は生きるものにとって、避けては通れない絶対的なものだけれども世代によって、あるいは死と本人との距離感によっても重さや、とらえ方は随分違ってくるものだなぁ……と思ったりした。
寒い季節のつれづれに、ちょこっと読んでみるのに似合いの1冊だと思った。