『女たちの避難所』を読んでからというもの、すっかり垣谷美雨作品の魅力にハマり、以降「垣谷美雨は私の押し作家」として追いかけてきた。
垣谷美雨は現代に生きる女性を描かせたら天下一品。
女を書かせたら天下一品と言うと桐野夏生を思い浮かべてしまうけれど、桐野夏生が描くのは女の本能で垣谷美雨が描くのは現代に生きる女のテンプレって感じがする。
今まで私は「桐野夏生と垣谷美雨はハズレ無し」と思っていた。実際、多少の当たり外れはあるものの「金返せ!」と本を壁に投げつけたくなるような作品には当たっていない。
しかしこの作品は駄目だ。
どうしちゃったの垣谷美雨? 映像化されたり注目され過ぎちゃったりして頭が変になっちゃったのか? それとも天狗になっているのか? 私の知っている垣谷美雨はこんな雑な仕事をする人ではなかった。
今回は思い切りディスっていく方向ですし、盛大にネタバレをするので、そう言うノリが苦手な方はどうかスルーでお願いします。
『四十歳、未婚出産』垣谷美雨
- 主人公は旅行代理店勤務の39歳。
- 40歳を目の前にして思わぬ妊娠。
- お腹の子の父親である28歳のイケメン部下。
- お腹はどんどん大きくなるけれど、本当のことはなかなか言えない。
さてこの作品。題名の通り40歳の独身女性が「妊娠しちゃった。どうしよう?」って話だ。
感想
ヒロインは旅行会社で働くキャリアウーマン。出張先で28歳の男性とうっかり身体を重ねてしまって妊娠する。男性は独身だけでモテ男で結婚出来ない。さあ、困った。でも産みたい…みたいなところから物語が進んでいく。
私は妊娠と出産は理屈ではなく本能だと思っている派なので、女性が身籠ったら10代だろうが40代だろうが本人が「産みたい」と思えば産むしかない。
だって、お腹にいるのだもの。とやかく言ったところで、どうにもならない。なので主人公の女性が「未婚だけど、40代だけど産みたい」と言う気持ちには賛同する。
直木賞作家である桐野夏生は自身のエッセイで「40代での出産と子育ては40代で直木賞を取るより難しいし偉大である」みたいな事を書いていたけれど、私も丸っと同意する。
しかしこの主人公。個人的には全く応援出来なかったし、共感も出来なかった。
まず「でも…だって…」と言い続けて周囲に妊娠を打ち明けず、具体的に何もしないままダラダラと仕事をして時間を過ごしていく。
一方でお腹はどんどん大きくなっている。
作者が既婚なのか未婚なのか、子どもがいるのかいないのは知らないけれど、出産と育児を舐めすぎてはいないだろうか?
東京に住んでいて保育園とかどうするの? とか、一事が万事ツッコミどころが多過ぎる。
そして1番腹立たしかったのが、田舎(京都)で暮らしている同級生の寺の住職が「お腹の子の父親になってもいいよ」と言う奇跡のような展開とオチ。
まぁ…100歩譲って「お腹の子の父親になっていいよ」と言う男性が登場するまでは構わない。
でも、そのまま突っ切っちゃうのかどうなのか?「そんな都合の良い男性がいる訳ないでしょ?」とも思うし「お腹の子に対してどうなの?」とも思った。
物語の途中ではマタハラ上司が出てくるのだけど、主人公の女性がクズなのでマタハラをされていも「そりゃ、そんな部下は私でも嫌だし辞めて欲しいわ」としか思えず、全く同情出来なかった。
もちろんマタハラは許されるものではないと思っているけれど、なんでもかんでも書けば良いと言うものではない。
どうしちゃったの、垣谷美雨? こんな作品書いちゃうなんて体調崩してるの?
ファンとしては悲しくて仕方がないですよ。
新しい作品が出たら次も読むけど、このノリが続くならもう無理だ。とりあえず次の作品に期待したい。