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天龍院亜希子の日記 安壇美緒 集英社

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安壇美緒は初挑戦の作家さん。第30回小説すばる新人賞受賞作とのこと。

題名を聞いて宮尾登美子の『鬼龍院花子の生涯』を連想した人は私だけではないと思う。そして「これはきっと大河ロマンに違いない」と期待してしまったのも私だけではないと思う。

ところがこの作品。大河ロマンどころか人材派遣会社で働く若者が主人公のお仕事小説なのだ。

大仰な題名とは裏腹に内容はかなり軽い。読みはじめてちょっと後悔した。「なんだ。自分探しとかしちゃうタイプの、ゆるふわな若者の話か…」と。

しかし読んでみたところ、意外にこれが面白かった。

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天龍院亜希子の日記

人材派遣会社に勤める田町譲・27歳。

ブラックな職場での長時間勤務に疲れ果て、プライベートでは彼女との仲がうまくいかない。なんとなく惰性で流れていく日常。

そんな平凡な男の日々を勇気づけるのは、幼い頃に憧れていた野球選手と、長らく会っていない元同級生の「日記」だった――。

アマゾンより引用

感想

池井戸潤の小説に登場するようなスーパーサラリーマンは出てこないのに、こんなに面白いサラリーマン小説が描けるものかと感心させられた。

主人公の男性は特別切れる人ではなくて「どこにでもいるサラリーマン」なのに、主人公を囲登場人物達の描かれ方がやけにリアルで「あ~。こう言うことあるよね~」とか「分かるわぁ~。この嫌な感じ~」と気がついたら、すっかり小説の中に入り込んでしまっていた。

漫画に例えるなら、かつてビッグコミックに連載されていた『総務部総務課山口六平太』が近いと思う。

主人公は切れる男ではないけれど、なんだかんだ言って「イイ奴」と言う設定が良かったと思う。

作品が終わる頃には主人公を応援したい気持ちになっていた。市井の人を描いた作品としては上出来の部類に入ると思う。

そして題名になった「天龍院亜希子の日記」についてなのだけど天龍院亜希子とは主人公の小学校時代の同級生。

あるキッカケから彼女の名前を検索して、彼女がブログで日記を書いているこを知る。

主人公は特に面白くもない彼女のブログをいつしか楽しみに読むようになっていくのだけれど、その辺のところはガッツリと自分と重なってしまって面白かった。

私は2001年からWEBでずっとあれやこれや書き散らしているのだけれど、それと同時にずっと誰かの日記だのブログだのを読み続けてきた。

インターネットを介して読む「誰かの人生」に共感したり、それが続いてくことを楽しみにしたりする感覚は独特のものがあるように思う。その辺のところが上手く描けていて、ちょっと親しみを感じてしまった。

デビュー作と言うことなので、どんな作家に成長していくのか追ってみたいと思う。

ちょっと今までに居なかったタイプの女性作家さんかも知れない。あえて言うなら、朝井リョウの女性作家ポジションが狙えるんじゃないかな…と思ったりする。

次の作品を楽しみにしている。

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