『迷い家』は第24回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。ツイッターの評判を見ていたら読んでみたくなって手を取った。
舞台は第二次世界大戦下の日本。主人公は真面目過ぎる軍国少年。父は戦死。
母を東京大空襲で亡くし、妹と2人で疎開先で暮らしていると言う設定。疎開先で題名にもなっている迷い家に取り込まれてしまう。
迷い家
ここは迷い家。妖と霊宝を隠世に閉じ込める屋敷―。
昭和20年。火の雨降る東京から、民話が息づく地・古森塚に疎開した少年・冬野心造。しかし、ほどなく妹の真那子が行方不明となる。
脱走か、人攫いか、神隠しか―。証言をもとに山に入った心造の前に忽然と現れたのは、見渡す限りの蕗の原にたたずむ巨大な屋敷だった。
アマゾンより引用
感想
物凄く力の入った作品なのだけど大賞を逃したのも優秀賞を受賞したのも納得出来た。
デビュー作なので仕方がないとは言うものの、良い部分と悪い部分が入り混じっていて「ここは素晴らしいけど、ここが残念」と言うところがハッキリ手でいる作品なのだ。
致命的に残念なのはホラー小説なのに怖くないってこと。感心したのは若い作家さんとは思えないほど人物描写が優れていること。
この作品の出来はともかく、これから注目したい作家さんだ。
まず掴みが素晴らしい。
疎開先で暮らす主人公の描写や疎開先で知り合った少年と友情を育んでいくあたりは素晴らしく、迷い家に引き込まれるあたりまでは最高だったと言っても良い。
人物描写がこなれていて中高年層の人間描写が素晴らしかった。山吹 静吽は介護施設で働いている介護士さんとの事なので日頃の経験が生かされているのかも知れない。
ただ、迷い家に入り込んでしまった後の厨二病的展開はちょっとうざったい。
柳田国男リスペクトと言うか、水木しげるリスペクトと言うか、妖怪の説明が多過ぎる。最初のうちは面白く読んていたけれど、最初から最後までいちいち丁寧に書かれても「もう説明は良いから話を先に進めてくれないかな?」と言う気持ちになってしまった。
山吹 静吽はあえてそうしたのだと思うけれど、読み手のことをもう少し考えて書いた方が良いと思う。
そして、そこまで丁寧に描かなくても良い部分をやたらしっかり書いたがゆえに物語の後半が駆け足になってしまったのが残念でならない。
前半と後半では密度が違いすぎてバランス悪い。ただ物語自体は良くできていると思う。ホラーなのにちっとも怖くはないけれど、人間の温かさや強さ、絆などの素晴らしさを感じる事が出来た。
やるせなく悲しい結末だけど、こう言うノリは嫌いじゃない。個人的な意見だけど、山吹 静吽はホラー書くよりコッテリした純文学を書いた方が向いている気がする。
物凄く良いところと悪いところが入り混じっていている作品ではあるけれど、デビュー作と思えば充分アリだ。今後の活躍を期待したい。