題名が表している通り『死の棘』のモデルで島尾敏雄の妻、島尾ミホについて書かれた評伝。
物凄く読み応えのある大作で巷でも絶賛されている模様。だけど最初に断っておきます。私、この作品は無理でした。
大作だって事もわかるし『死の棘』を読み解くための資料として優れているのも理解しているけれど、全く肌に合いませんでした。
正直、巷で絶賛されている作品を「面白くなかった」と書くのは気が引けるのですが、無理なものは無理でした。
狂う人「死の棘」の妻・島尾ミホ
島尾敏雄の『死の棘』に登場する愛人「あいつ」の正体は?
あの日記には何が書かれていたのか。
ミホの書いた「『死の棘』の妻の場合」は、なぜ未完成なのか。そして本当に狂っていたのは妻か夫か──。
未発表原稿や日記、手紙等の膨大な新資料によって、不朽の名作の隠された事実を掘り起こし、妻・ミホ生涯を辿る、渾身の決定版評伝。アマゾンより引用
感想
さて。どうして私がこの作品を面白くなかったかと言うと「島尾ミホって人が好きになれなかった」と言うところに尽きると思う。
伝記とか評伝って、作家の実力もさることながら「書かれているモデルを好きになれるかどうか」で随分違ってくると思う。
突拍子もなくてクレイジーなモデルでも「なんか嫌いになれない」とか「人でなしだけど魅力的な人だよね」とか言う場合は大丈夫なのだけど、そうでない場合は読むのが結構キツイと思う。
私はこの評伝を読んでいて島尾ミホと言う女性に対して「なんだか知らないけど面倒臭ぇ女だなぁ」としか思えなかったのだ。
絶対友達にしたくないタイプだし、パートナーとしても選びたくない。要するに私の好みじゃなかった。
島尾ミホは情熱的…と言えば情熱的だし、教養のある女性なのだろうけれど、見栄っ張りなところとか、自己顕示欲が強いところとか、どうにも苦手なタイプとしか言いようがなかった。
ただ、作者がキッチリと取材を重ねることで、今まで書かれてきた島尾ミホのイメージを一新しているところ素晴らしいと思う。この点に関しては素晴らしいと絶賛したい。
あと『死の棘』を読んだことのある人なら「そりゃ、そうだろうなぁ」と感じると思うのだけど、島尾敏雄とミホの共依存的な関係を明らかにしているところも素晴らしい。
個人的に共依存関係が好きではないのと、島尾ミホ自身も物を書く人で「共作」とまではいかなくても『死の棘』に島尾ミホが大きな影響を与えているにも関わらず「島尾敏雄の妻」とか認知されていないところに納得していないのかな…と言う部分が見え隠れしていて、読んでいてなんだかモヤモヤしてしまった。
この作品を読んでの感想をひと言で言うなら「島尾ミホって魔女みたいな人だな」ってところだろうか。
全編を通して呪いと言うか、怨嗟と言うか、とにかくマイナスの感情を感じてしまって「うわぁぁ」っとなってしまった。
個人的には壁本とは言わないまでも、読まなきゃ良かった1冊だ。
駄作だとかそう言う事を言うつもりではなくて、島尾敏雄が好きだったり『死の棘』が好きだったりする人は是非、読んでおいた方が良いと思う。
ただ作品の出来不出来と個人の好みはまた別物…って事でご了承戴きたい。