『美しい距離』は芥川賞の候補に上がった作品との事だけど、全く知らなかった。
山崎ナオコーラの作品は何冊か読んでいて「久しぶりに読んでみようかな」程度の軽い気持ちで手に取ったのだけど、今までとは作風が違うし、今までの作品からは想像もつかないテーマで面食らってしまった。
癌に犯され死期の迫った妻を看取る夫の話。
山崎ナオコーラは「ふわふわした雰囲気小説を書く人」と言う認識でいたので、本を読みすすめてから思わず作者名を確認してしまったほどだ。
美しい距離
40歳代の妻は癌に冒され死へと向かって歩む。生命保険会社勤務の夫は愛する妻へと柔らかい視線を投げかける。人生考察の清々しさ。
限りある生のなかに発見する、永続してゆく命の形。
妻はまだ40歳代初めで不治の病におかされたが、その生の息吹が夫を励まし続ける。世の人の心に静かに寄り添う中篇小説。
アマゾンより引用
感想
「死ぬゆく妻と夫の物語」なんて書くと「全米が泣いた!」的なお涙頂戴小説のようなイメージを持ってしまうかと思うのだけど、淡々としていてお涙頂戴的な要素は全く無かった。
妻も夫も「死」と言うものを冷製に受け止めていて、作中で愛の言葉を叫んでみたり、涙したりするような場面は全く無い。
入院生活のことや生命保険のこと。介護保険や介護休暇のこと。よく勉強されているな…と感心した。(もしかしたらご自身の経験も反映されているのかも知れないけれど)。
入院とか闘病生活とかって、傍から見るとドラマティックだけど渦中にある人間にとっては生活の一部でしかないし、案外淡々としているものだ。お金や手続きのことも大切だし。
……などと書いてみたものの、実のところ「素敵な小説だなぁ」とは思えなかった。
登場人物達が悟り過ぎているのだ。死にゆく妻も夫もそうだし、妻の母や見舞いに来てくれる人達もそうだ。
死ぬ間際の人間がああも美しくいられるだろうか?
人格的に素晴らしい人であっても病気になると多少我儘になるものだけど、そう言った描写も一切なくて素晴らしい病人の妻と、素晴らしい夫がいただけだった。
率直に言うとリアリティがなさ過ぎるのだ。
作品を流れる空気とか淡々とした感じは好きだし、今までのテーマとは違うところを攻めてきた事については素直に評価したい。
だけど、面白かったかと聞かれると「微妙」としか言えない。とりあえず次の作品に期待したいと思う。