お久しぶりの万城目学。『バベル九朔』と言う突拍子もない題名に惹かれて手に取った。
万城目学の付ける題名って他にない感じで大好きだ。訳の分からない感じの題名に訳の分からない物語。それが万城目学の個性だと思う。
しかし今回の作品はイマイチ面白くなかった。
バベル九朔
- 主人公は小説家を目指す青年で、祖父が残して母が引き継いだテナントビルの管理人をしながら小説を書いている。
- 題名の『バベル九朔』とは、主人公が管理しているテナントビルの名前。
- 巨大ネズミ出没、空き巣事件発生と騒がしい毎日のなか、主人公は大長編を完成させる。
- 小説の題名が決まらず悩む主人公は突然追われる身となる。
- いつものビルが違う様相となっている中、主人公は上へ上へと逃げることに。「バベル九朔」に隠された壮大な秘密とは?
感想
このバベル九朔を舞台にした大人のファンタジー小説なのだけど、いかんせんテンポが悪い。
相変わらず軽めな文章で読み難い訳ではないけれど、のっけからダラダラした雰囲気でそのままダラダラ話が進んでいくのが苦痛だった。
何しろ主人公は小説家志望…とは言うものの、ニートと紙一重な感じの若者なのでキャラクターに勢いが無いのだ。
そして物語の舞台も『バベル九朔』と言うテナントビルの中だけで展開していくので、圧迫感が半端ない。
実のところパラレルワールド的な世界に突入するので「テナントビルの中だけ」ではないのだけれど、それにしても世界観が狭くて鬱屈した感じ。
こういう雰囲気が好きな人もいるだろうけれど、私は作者の明るい作風の物が好きなので、楽しむ事が出来なかった。
せめて仕掛けを楽しむ事が出来れば良かったのだろうけれど、仕掛け自体私には「そんな事どうでもいいんだけど」くらいにしか思えなかったのだ。
成長小説とも、ファンタジー小説とも、不条理小説とも言えない中途半端な位置付けで、どこをどう楽しんだものか…と言う印象。
『鴨川ホルモー』や『プリンセス・トヨトミ』とは違って、主人公の視点が全て…と言うタイプの作品なのも敗因の1つではないかと思う。
『鴨川ホルモー』や『プリンセス・トヨトミ』は主人公以外の登場人物のキャラが濃くて、キャラで読ませていたような部分があったのに対して、今回はその手法が使えない分、つまらなくなってるな…と言う印象。今
まではよくも悪くもキャラ小説だったのかも知れない。
ただ、この世界観は「好きな人は好きかもな」と言う気はする。残念ながら私には合わなかったってだけで。最後まで読んでみたものの、読後感も良くないしイマイチ楽しめない1冊だった。