面白過ぎて興奮してしまった。私はこれから作者のことを「暗黒童話屋」と呼ぶことにする。
ひらがなが多目で、やさしい文章を書くのに、実はかなり暗いのだ。
暗いだけなら、まだしも切なくて恐い。宮澤賢治だの、小川未明だのといった作家さんと同じ空気を感じてしまった。
童話、あるいは児童文学だから出来る手法だと思う。
こういう話を大人の本として書かれた日にゃぁ、やり切れなくて死にたくなってしまうだろう。
ぶらんこ乗り
- ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意、声を失い、でも動物と話ができる、弟の物語。
- まるで天使のような弟は1冊のノートを残していた。
- 弟が残したノートには真実が描かれていた。
感想
ヒロインの弟が書いた動物が主人公の童話が、ゾクゾクするほど素敵だった。どれもこれも「痛てぇ」って感じの話なのに。
- 残酷なペンギン
- ローリングする象
- 中毒コアラ
こんなに恐くて面白い話、どうやったら思いつくのだろう。面白いというよりも「やり切れない」感じがした。
ヒロインの弟の書いた童話と、本筋の話に共通して感じたのは「分かり合えない」とか「通じ合えない」とかいう、自分と他者の間にある、どうしようもない距離感だった。
分かり合いたいと願いつつ、しかし決して分かり合えない……ってありたが、切なさのツボを直撃。
それでもなお、想う人と共にいたいと思うのだから、人間って生き物は厄介だなぁと思う。
わたしたちはずっと手をにぎってることはできませんのね
たがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ
この一文は、この作品のテーマを雄弁に物語っていると思う。
永遠ではないと知りつつも、手を繋ぐことを肯定して生きるのは素晴らしいと思う。そこには、痛みを引き換えにしても得るものがあるのではないかと。
それにしても、ラストで1人ぼっちになってしまったヒロインが不憫でならない。たぶん、ヒロインはそれなりに生きていくのだろうけれど。
どんなことでも、残された者というのは、去りゆく者より辛いと相場が決まっているのだ。
ずっと手元において読み返していきたい1冊に出会えるというのは本読みにとって幸せなことだと思う。この本に出会えて本当に良かった。いしいしんじの他の作品の感想も読んでみる