前評判を全く知らない状態で題名と表紙に惹かれて手に取った。
前回読んだ『よだかの片思い』が良かったので、期待していたのだけど予想外の鬱本だった。
恋愛サスペンスって事らしいけれど、サスペンス性は低くてどちらかと言うと恋愛小説だと思う。サスペンスが苦手なわたしでもサクサク読めた。
鬱っぽい恋愛小説を読みたい時には良いかも知れない。
匿名者のためのスピカ
- 主人公は弁護士を目指す法科大学院に通う学生。
- 主人公は就職の相談がきっかけで同級生の館林景織子と親しくなるが、彼女には恋人に監禁された過去があった。
- 今もその男らしき相手から連絡が来るという。怯える彼女を守ると誓った修吾だったが、ある日彼女は、その男と思しき人物の車に自ら乗って姿を消してしまう。修吾は彼らを追って南の島に向かうが…。
感想
ヒロインは高校生の時に恋人から監禁された事のあるという過去の持ち主。ヒロインの過去の事件を軸に物語が転がっていく。
ヒロインは親の愛情に恵まれない子で、監禁された時も「無理やり監禁された」と言うよりも、彼女自身も犯人に監禁されたがっていたようなところがあり、最近起こったいくつかの監禁事件、誘拐事件を思い出して悲しい気持ちになってしまった。
作者は恐らく、そういったいくつかの事件から設定のヒントを得たのだと思う。作りとしては悪くないし納得できるのだけど救いがなさ過ぎて読んでいるのが辛かった。
この作品には愛情に飢えた人が多過ぎな気がした。
主人公は健やかな心の持ち主だけど、主人公を手助けしてくれる友人もこれまた特異な家庭環境から心が歪んでしまったという設定。
ただ、それも「そんなヤツおらんやろ」的な設定ではなくて、いかにもありがちな不幸ってところがリアルで嫌な感じ。どの設定もリアルと言えばリアルなのだ。そこが切ない。
切ないと言えば主人公の切なさったらない。
現実世界において「いい人」と言うのは利用され、消費されるがデフォルト。「あんたって子はどこまでお人好しなんだよ!」と読んでいてちょっとイライラしてしまった。ホント馬鹿な子だ。主人公には幸せになって欲しいと思う。
物語は主人公の人生途中で終わってしまっているけれど、主人公は幸せを掴める人だと思う。
そして今さらなのだけど作者は不幸話が好きなんだな……ってことに気がついた。
私も不幸話は大好きなのだけど、方向性が微妙に違うのが残念だ。
この作品を読んで作者の目指すところが分からなくもない気がする。もう少し重苦しく書いちゃってもいいんじゃないかと思う。不幸設定が生かしきれておらず、さらさらと表面を滑っている感じ。
「現実はそんなものですよ」と言ってしまえばそれまだけど、小説なのだから、ぶっちぎっても良いのではないかと思ったりするのだ。ただ鬱っぽい話を書けばいいってもんじゃない。もっと酔わせて欲しいのだ。
悪いとは思わなかったけれど、色々と残念な1冊だった。