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見えなくても王手 佐川光晴 実業之日本社

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前回、佐川光晴の作品を読んだのは将棋をテーマにした短編集『駒音高く』だったけど、今回の『見えなくても王手』も題名から分かるように将棋がテーマの作品。

佐川光晴ってデビュー当初は難しいテーマの作品が多かったように思うのだけど、近年は成長小説にシフトしているのかな?

『駒音高く』は若者達が主人公だったけれど、今回は全盲の小学生が主人公だった。

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駒音高く

ザックリとこんな内容
  • 生まれつき全盲の小学四年生・及川正彦は盲学校での新学期を迎え、そこで赴任してきた教師から将棋を教わる。触って分かる駒と盤を使い、正彦は初めて将棋という世界に触れる。
  • 正彦は寄宿舎や授業の合間に将棋を指すようになり、クラスメイトや先輩たちとの対局を重ね、勝敗の厳しさや読みの難しさを知りながら経験を積んでいく。
  • 将棋に打ち込む日々の中で、正彦は友人関係の変化や家族への思い、自分が見えないことへの不安と向き合いながら、少しずつ自分なりの考えを形にしていく。

感想

ひとことで言うと「普通に良かった」って感じ。ツッコミようのない真面目な小説だった。商業的に売れる小説…って感じではなくて学校の図書室に置いて欲しいような、夏休みの課題図書に推薦されそうな…そんな物語。

盲学校で生活する小学生が将棋の楽しさを知りたくましく成長していく物語。

障害児支援教育の世界って知らない人は知らないと思うので少し解説。視覚障害を持った子どもは盲学校とは視覚支援学校、または地域の小学校の支援級に在籍することになのだけど、点字を覚えたり将来、視覚障害者でも働けるスキルを身につけるために地域の小学校ではなく盲学校や視覚支援学校に進学することが多い。

ただ、視覚支援学校や盲学校って都道府県によっては県に1つしか視覚支援学校が無い地域もある。例えば私が暮らしている大阪府に視覚障害の特別教育が可能な視覚支援学校は2つあるけど、暮らししている地域によっては自宅から学校に通うことができないケースがあるためも視覚支援学校には寮が付属していることが多い。

視覚障害だけでなく、聴覚障害もそうなのだけど支援学校って普通学校より数が少ないので「学校に通う」ってこと自体が大変。もうさ…はじめてランドセル背負う、この前まで幼稚園や保育園に通っていた子が親元を離れて生活するとか、どんだけ人生ハードモードだよ…って話だ。

主人公の正彦も小学校1年生から盲学校の寮に入って生活する。彼の家は出雲大社の近くで老舗の蕎麦屋を営んでいて父は蕎麦職人。正彦もいずれは家業を継いで蕎麦職人として生きていこうと考えている。目が見えない正彦が蕎麦職人として生きていけるように、父は少しずつ蕎麦について正彦に手ほどきしたりる場面もある。

プロが活躍することがテーマの小説って「プロになりたい」と頑張る若者の栄光と挫折…みたいな感じの物語になりがちだけど『見えなくても王手』は「プロになる」のが目的でなかったのが良かった。将棋に対する姿勢が「プロになる」ではなくて「将棋楽しい」「楽しいから強くなりたい」みたいな感じなのだ。こういうタイプの将棋小説があっても良いと思う。

主人公の正彦が健やかな良い子に育っていて「母親目線」どころか、おばあちゃんが孫を愛でるような気持ちで読んでしまった。そして正彦の周囲の大人達も全員良い人揃いだった。大人の読み物としては綺麗事過ぎる気がしなくもないけど、それこそ学校図書にはもってこいだと思う。

薄汚れた心になってしまった大人の心に温かさが染みるような気持ちの良い1冊だった。

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