『コスメの王様』は化粧品会社(クラブコスメチックス)の創業者である中山太一がモデルの大河小説。朝の連続ドラマにしても不思議じゃないような内容なので、その類のドラマが好きな方は素直に楽しめるんじゃないかと思う。私はテレビドラマは観ないけれど大河小説は大好きなので存分に楽しませてもらった。
最近の小説は時代小説でもなければ、現代設定の作品が多いのでこの類の作品はちょっとめずらしい気がする。今回の感想。大事なところは伏せていくけど、軽くネタバレを含みますのでご容赦ください。
コスメの王様
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昭和から平成にかけて実在した“東洋の化粧品王”中山太一(作中では永山利一)の波乱に満ちた半生をモデルに描かれた歴史ロマン。
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大阪の町工場から一代で化粧品ブランドを築いた利一は戦後の混乱、男女差別、国際競争など逆境に立ち向かいながら、化粧品で人々の心を照らしていく。
- 幼馴染の芸者ハナを身請けすると約束していた利一だったが……
感想
大河小説を読んだのって何年ぶりだろう? 久しぶりに堪能させてもらった。
貧乏人の小倅と幼馴染の芸者の恋…とか大好物過ぎる! ベタベタの王道設定ではあるけれど、最近この王道設定を見掛けないのである意味新鮮だった。主人公の利一の負けん気の強さも良かったけれど、芸者のハナがちっともスレていなくて「芸一筋」なところがとても良かった(とは言っても芸者なので素人の女の子とは違うのだけど)
利一が出世していく過程とハナが渡米するところまでは勢いがあって最高に面白かったけれど、後半から老境に入ってからその勢いが失速してしまったのが残念だった。そもそも大河小説の場合、後半はパッとしない展開になるのは仕方がないと言えばそうなのだけど。
『コスメの王様』の場合は実在の人物をモデルにしているところも難しかったのだと思う。歴史上の人物くらいまでいくと好き勝手書いても許容されるけれど、現存する企業の創始者なので好き勝手書くとはいかなかったのだと思う。
なんと説明したら良いのかな。「最高に面白かったです!」と大絶賛はできないけれど、十分過ぎるほど楽しめた。何よりも最初に書いたように「このノリの大河小説を読んだのは久しぶりだった」ってところが重要で王道過ぎる展開がとても良かった。
作者である高殿円の作品を読むのは『トッカン 徴収ロワイヤル』に続いて2冊目なのだけど、素直で真っ直ぐな文章を書く人だなぁ~と思った。特徴のある文章ではないし、内に秘めた何かを爆発させるタイプの作家さんではなさそうだけど、ここまで素直な文章は最近読んでいなくて新鮮な感じ。高殿円の作品は今後、追っていきたい。



