河野多惠子の遺作集。図書館で借りて読んだのだけど、これは買っておくべきだと思った。
短篇小説、エッセイ、日記、詩と雑多に入っていて「本当にこれが最後なのだなぁ」と寂しくなってしまった。
薄い単行本なのでか鞄に入れて持ち歩くのも可能。本にかけられているカバーの装丁とカバーをめくった時の装丁が全く違っていて、デザイン的にも素晴らしい。
図書館の本はカバーを外した状態なのだけど、ネットで調べてみてその違いに驚いた。河野多惠子が大好きな人が作った本なのだなぁ……って事が伝わる1冊。
考えられないこと
若き戦死者への鎮魂の思いがこめられた現代日本文学の開拓者による最後の作品集。
大阪大空襲で生家が焼けたことも知らず、終戦から半年後に復員してきた兄。混みあった電車のなかで、「君、結婚は?」と声をかけてきた兄の友人は、すでに戦死していた。
誰にも言うなよと言って聞かされたその話を、語っておきたい――。若き戦没者たちを哀しむ表題作など八十七歳で書かれた三つの短篇に、詩三篇、日記を付す。
アマゾンより引用
感想
ボリューム的には少な過ぎるのだけど、これは遺作集なのでどうにも仕方がない。
きっと、もっと長生きされていたのなら、雑多煮のような形で作品が発表される事は無かったと思う。
いつもの濃厚な河野多惠子ではなく端正な感じの文章が多い。短編小説は女子学生の性教育が書かれていて「これぞ河野多惠子」って感じもしたけれど、比較的読みやすい作品に仕上がっていると思う。
実は私。河野多惠子が大好きなのだけど、この作品を読むまで彼女が大阪で暮らしいてたことを知らなかった。
なんとなく東京生まれの東京育ちって気がしていたのだ。それだけに『考えられないこと』と言う題名のエッセイの中で戦後の大阪の様子が触れられていたのに驚いたと同時に嬉しくてたまらなかった。
帝塚山だの阿倍野だの南海電車だの、親しみのある地名や言葉が出てきて、ファンとしてはたまらぬ物があった。
「だからどうした?」と言われてしまえばそれまでなのだけど。小説だと濃厚な作品が多いのに、エッセイだと飄々とした感じがして、そのギャップが面白かった。
そして私は他人の日記を読むのが好きなので、少しだけ掲載されていた日記も興味深いものがあった。仕事のこと、本のこと、音楽のこと。背筋がピンと伸びた感じの文章。
プライベートの事は全く知らないけれど、かくしゃくとした人だったのではないかな……と想像した。
たぶん、これが河野多惠子の最後の1冊になると思うのだけど、今まで素晴らしい作品をこの世に送り出してくれたことに心から感謝したい。