『存在のすべてを』は2024年の本屋大賞第3位に選ばれた作品と。作者である塩田武士の作品を読むのはこれで3冊目。
前に読んだ2冊はそこまで心に刺さらなかったのだけど「2児同時誘拐」とか「画家の世界」などがテーマになっているとのことで、読んでみたい気持ちになった。
私には絵を描く趣味はないけれど、絵を観るのは好きなので「画家の世界」には興味があった。なんかこぅ…知らない世界の一部を覗き見るのは面白かったし、物語自体も面白かった。
存在のすべてを
- 平成3年に発生した2児同時誘拐事件から30年…当時警察担当だった新聞記者の門田は、旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「今」を知る。
- 再取材を重ねた結果、門田はある写実画家の存在を知る。
- 2児同時誘拐事件と天才的な写実画家を繋ぐものとは?
感想
『存在のすべてを』は私にとって不思議な作品だった。前半はミステリ小説なんだけど、後半は純文学風になっている。どういう方向から受け止めれば良いのか最後までな謎過ぎだった。
前半は確実にミステリな読み物。2児同時誘拐事件がメインになっていて、時効になった事件を追う元刑事と新聞記者が粘り強い操作の末に事件の真相に迫っていく。ところが後半は絵画界隈の内情と写実画家の人生に焦点が当たっていて、なんだか純文学のようだった。
前半と後半。どちらの流れも面白い…と言えば面白いのだけど、この作品をどう捉えれば良かったのだろうか?
メインの登場人物達(対立設定の悪役除く)はそれぞれに全員「いい人」ばかりで好きになっちゃうタイプなのだけど、なんかこぅ…それぞれに自分勝手。ネタバレを避けたいので詳しいことは書けないけれど「気持ちは分かる…気持ちは分かるけど、それやっちゃ駄目でしょ?」みたいなことをやってしまうのだ。
……正直、ちょっぴりモヤモヤしてしまった。
後半はミステリ要素低めで純文学ちっく。「分かっちゃいるけどやめられない」みたいな部分を描くのが純文学と言うのであれば、アリかな~と思うものの、子ども…と言うか1人の人間の人生が関わってくる内容だったので個人的には納得出来ないところが多かった。モヤモヤ感はあったもののラストは綺麗に着地していた。いちおうハッピーエンドって事なのだと思う。
手放しで絶賛できないけれど物語には引き込まれたのも本当だし、登場人物に肩入れしちゃった自分がいる。絵画界のドロドロしたやり取りも興味深かった。『罪の声』の時も思ったのだけど、塩田武士の作品って私の好みのど真ん中ではなく微妙に外したところにあるのだと思う。でも、興味のあるテーマを書く作家さんなので次の作品も手に取ってしまう気がする。