『アリアドネの声』は地下都市に閉じ込められた「見えない・聞こえない・話ができない」障害者女性を救出する…と言う物語。
「見えない・聞こえない・話ができない」と言うと中高年層がイメージするのはヘレン・ケラーの伝記ではないかと思う。幼少期から伝記マニアを名乗っても良いくらいに伝記を読みまくった私もヘレン・ケラーの伝記は特別な思い入れがある。面白かった伝記ベスト10を作るとしたら、間違いなくランクインする。
……と。すっかり本の感想から話が逸れてしまったけれど『アリアドネの声』は最近の社会事情を目一杯盛り込んだ作品だった。
アリアドネの声
- 兄を事故を亡くしたハルオは、贖罪の気持ちから救助災害ドローンを製作するベンチャー企業に就職する。
- そんな矢先障がい者支援都市「WANOKUNI」で巨大地震が起こり1人の女性が地下の危険地帯に取り残されるのだが彼女は「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障がいを抱えていた。
- 崩落と浸水で救助隊の侵入は不可能。およそ6時間後には安全地帯への経路も断たれてしまうため時間内に女性を救出しなければならない。
- ハルオはドローンを使って目も耳も利かない中川をシェルターへ誘導するという前代未聞のミッションに挑む。
感想
『アリアドネの声』の感想をひと言で言うと「まあまあやね」ってところに尽きる。文章はそこそこ読みやすくてテンポが良いのでサクッっと読める。だけど宣伝文句で言うところの「どんでん返し」は比較的早い時点で予想できたので驚きはなかった。
とりあえず「凄いな」と思ったのは最近の流行りを「これでもか」くらいに乗っけて物語を作った…ってところ。
- 巨大地震と地下都市
- ドローンの可能性
- 障害者支援
作者の井上真偽は東京大学の工学部出身。頭の良い人の書いた作品だと思ったし、これからもゴリゴリと作品を生み出す力がありそうだなぁ…と感じた。
だけど正直、好きになれない作品だった。悪くはないんだけど作品から感じる熱量が足りない。色々な要素を盛り込んではあるけれど特化型ではないのだなぁ。
例えば…だけど久坂部羊などは毎回、同じようなテーマで書いているものの作品数が多くて「どの作品も最高です!」とは言えなくて、面白さにバラつきがあるのだけど「今回はイマイチだったな」と思う作品からでも熱量が伝わってくる。
だけど『アリアドネの声』からはその熱量のようなものが感じられなかった。「じゃあ、熱量って何なのよ?」って言われると上手に説明することは出来ない。それなりに面白かったけど、心を揺さぶれる事はなかったし、たぶん数年後には読んだことを忘れてしまうだろうな…ってイメージ。