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映画『梅切らぬ馬鹿』感想。

3.0
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映画『梅切らぬ馬鹿』は老いた母親と自閉症を抱えるの息子の日常と、彼らと関わる周囲の人達の人間模様を描いた作品。

主演の加賀まりこは自閉症の息子(正しくは18年間連れ添っている事実婚のパートナーの息子)がいるとのこと。そのこともあって『梅切らぬ馬鹿』の仕事を受けたそうだ。

障がい者をテーマにした作品は色々あるし、演じる人も様々だけど『梅切らぬ馬鹿』の親子は母息子とも素晴らしい演技だった。

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梅切らぬ馬鹿

梅切らぬバカ
The Lone Ume Tree
監督 和島香太郎
脚本 和島香太郎
出演者 加賀まりこ 塚地武雅(ドランクドラゴン)
渡辺いっけい 森口瑤子 斎藤汰鷹
徳井優 広岡由里子 林家正蔵 高島礼子
音楽 石川ハルミツ
公開 日本 2021年11月12日
上映時間 77分

あらすじ

占い師の山田珠子は、重度の自閉症を抱える息子の忠男(忠さん)と二人で暮らしていた。ある日、隣に里村一家が引っ越してくる。

奥まった里村家に続く路地には山田家の梅の枝が大きく張り出して邪魔になっていた。梅の枝をは切ろうとすると、忠男がパニックを起こすため放置されていたのだった。

高齢の珠子は49歳になった忠男の将来を案じ、近所のグループホームの世話になることを決めてる。知的障害者ばかりが暮らすグループホームは町の人々から煙たがられ、郊外への移転を求められていた。

忠男は夜中にグループホームを抜け出してしまい、里村家の息子で小学生の草太は、塾帰りの夜道で顔見知りの忠男と出会う。

草太は忠男を誘い、乗馬クラブの可愛いポニーを連れ出して引いて歩いていると、厩務員に見つかり、忠男だけが捕まってしまった。

忠男の騒ぎのせいでグループホームの移転問題が加速した。

草太は責任を感じ自分だけ逃げたことを両親に打ち明ける。草太の父の茂は親としての責任を感じ、山田家に謝罪に赴いた。そこには息子の草太と妻の英子も来ていた。

塚地武雅と加賀まりこの熱演

『梅切らぬ馬鹿』を観て何より感心したのは自閉症の「忠さん」がを演じた塚地武雅の演技。あまりにも上手過ぎた。知的障害者を演じて評価された役者は多く『レインマン』のダスティン・ホフマンや『ギルバート・グレイプ』のディカプリオなどにも負けないくらいに素晴らしかった。

動きがあまりにもリアルでビックリしてしまった。知的障害の人って低緊張の傾向が強いけれど、塚地武雅はまさに低緊張の人の動きだった。首のかしげ方や言葉なども、演技するためにしっかり研究されたのだなぁ…ってことが理解できた。

また加賀まりこも上手かった。加賀まりこの場合、息子が自閉症とのことなので、実体験からくる演技だったのだと思う。塚地武雅と加賀まりこの母息子はリアル過ぎて怖いほどだった。

障がい者の地域移行

さて。『梅切らぬ馬鹿』の中で、忠さんは母との生活からグループホームへ入所する。ただし、この作品の中でグループホームは地域住民からよく思われておらず立ち退き運動が起こっている。

「障がい者を排除するなんて酷い」って意見が出そうな話だけど、仕事で日々障がい児と過ごしている私からすると「まぁ…分からなくもない」と思ってしまう。知的障害者を理解するのって綺麗事では済まされない。

実際『梅切らぬ馬鹿』の中でも忠さんは騒ぎを起こしているのだ。悪気はない…とは言うものの、人間社会にはやって良いことと悪いことがある。残念だけど多くの知的障害にはその境目が分からないのだ。

日本は現在、障がい者の脱施設化を勧めていて「障がい者も地域で暮らしましょう」って方向に舵を切っているので住宅街に設置されるグループホームの問題はこれからもっと深刻化してくと思う。

「グループホームも施設なのでは?」って話だけど、それを言い出したら高齢者のグループホームも閉鎖しなきゃならない訳で。脱施設化と言うのは、かつて山奥などに作りがちだった障がい者の入所施設…って話。そういう施設を無くして「地域に溶け込んで暮らしましょう」って事なので今後も障がい者のグループホームは増え続けると思う。

山田家の復活物語

『梅切らぬ馬鹿』は加賀まりこと塚地武雅親子の物語と同時進行で隣に引っ越してきた山田家の家族の物語も進んでいく。

こちらは「どこにでもいそうな家族」の「どこにでもありそうな物語」が加賀まりこと塚地武雅と交流する過程で良い方向に転がっていくのだけど、正直この描写はあっても無くても良かった気がする。

なんかこう…偽善的な気がした。

「障がい者との交流を通して自分の生き方を見つめ直しました」みたいなノリは教育映画臭い気がして、私は山田一家に気持ちを寄せることができなかった。

ラストに希望はあるのか問題

『梅切らぬ馬鹿』を観た後に「他の人はどう感じたんだろう?」と色々な人の感想を読み漁ってみたけれど「結局、何も解決していない」と書いている人がいて「ホントそれな」と握手を求めたいような気持ちにっなてしまった。

『梅切らぬ馬鹿』高齢親と中年になった知的障害者の生活を描いた作品ではあるけれど、物語を通して何かが変化した…ってタイプの話ではないのだ。

決して嫌な終わり方ではないけれど「ラストに希望があるのか?」と聞かれると首をかしげざるを得ない。今の日本の現状と合っている…と言えばそうなのだけど、ふんわりした終わり方だった。

加賀まりこと塚地武雅の演技が素晴らしかっただけに脚本の弱さや世界観構築の甘さが残念に思う。

私自身の仕事と重なる部分もあるので「勉強になればいいな」と思って観たけれど「加賀まりこ上手いな」「塚地武雅凄いな」以外にはイマイチ響かない作品だった。

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