『海賊とよばれた男』は出光興産創業者の出光佐三をモデルにした小説で第10回本屋大賞受賞。映画化もされて書店には本が平積みされていたのを覚えているけれど「なんか好みじゃない気がする…」と今まで読まずにいた。
だけどAudibleの聞き放題プランで声優の井上和彦がナレーターをしている事を知り「聞かねば!」と言う使命感に駆られて聞いてみた。
……井上和彦のナレーションは最高だったけど、作品の内容は好みじゃなかった。今回は否定的な内容の感想なので、お好きな方は遠慮して戴いた方が良いかも。
海賊とよばれた男
- 出光興産創業者の出光佐三をモデルとした主人公・国岡鐡造の一生と出光興産をモデルにした国岡商店が大企業にまで成長する過程追っている。
- 伝記小説ではなく「出光佐三をモデルにした小説」って立ち位置。
- 国岡鐡造の青春時代から95歳で亡くなる昭和56年までの波乱の人生を描く。
感想
『海賊とよばれた男』はドラマティックな展開でテンポも良くてサクサク読める(私は聞いたけど)タイプの作品だけど、なんかこぅ…私の価値観とは違ったタイプの作品なので素直にハマることが出来なかった。
企業小説は嫌いじゃないはずだけど、ところどころご都合主義が垣間見えるのと、主人公を賛美し過ぎて嘘くさい感じがどうにもこうにも。
国岡商店立ち上げまではそこそこ楽しかったけれど、物語が後半になればなるほど「引くわぁ~」としか思えないエピソードが多かった。例えば…
- 子どもを産めない妻と離婚する話を美化
- イラン石油輸入日章丸事件で乗組員に行き先を告げない
- 「社員は家族」の思想を全面に出す(ブラック経営だったと聞くが?)
主人公を格好良くしたい気持ちは分かるけれど、あまりにもご都合主義的だった。最初の妻との離婚を美化したあたりから「これはどうなんだ?」と思うエピソードが山盛り過ぎた。
まぁ…時代が時代だから仕方ないと言ってしまえばそれまでだけど「命の危険のある航海(撃沈される可能性があった)に出るのに、乗組員に黙ってるのとかどうなの?」とかモヤモヤがた止まらなかった。そして騙されて出港したにも関わらず乗組員全員ノリノリで忠誠を誓うとか!たぶん作者的には感動ポイントなんだろうけど「無いわぁ~。絶対ムカついる奴いるって!」みたいな気持ちになってしまった。
タンカー火災で子会社の従業員が全員死亡したエピソードなども感動するより微妙な気持ちしか残らなかった。
思うに。私が『海賊とよばれた男』を受け付けられなかったのは、伝記小説なのか創作としての小説なのかの線引きが微妙だったからだと思う。
伝記小説の場合、主人公が偉人でありながらもクズ(野口英世とか石川啄木とか)で酷いエピソードがあったとしても「事実がそうだったんだから仕方ないな。本人死んじゃってるし」と受け止めることが出来る。
また完全な創作としての小説なら「はいはい。右翼的思想のブラック経営者ですよね。でもドラマティックではあるよね」と納得出来だだろう。
だけど『海賊とよばれた男』はその辺の線引が曖昧だったので、私の中でモヤモヤを抑えることが出来なかったのだ。
井上和彦のナレーションが聴きたかったばっかりに手を出してしまったけれど、なんかこぅ…コレジャナイ感満載の作品で残念だった。それでも井上和彦のナレーションは素晴らしくて声優さんは凄いな…と思った。