戦争は嫌いだけど戦争映画は好きだ。戦争映画…と言うと、戦車だの潜水艦だの戦闘機に乗って戦ったりすところがメインになりがちだけど『K-47 最強の銃 誕生の秘密』は「武器の開発物語」なので、よくある戦争映画とは少し違った雰囲気だった。
たぶん…だけど、昔放送されていた『プロジェクトX』が好きだったり「物作りの過程」好きな人には楽しめる作品だと思う。
しかも主人公のミハイル・カラシニコフはコサック地方の農民の息子。専門的な教育を受けておらず、独学で銃の開発に取り組んでる。
ちなみにミハイル・カラシニコフが開発したアサルトライフルK-47は「人類史上、最も多くの人を殺した武器」と言われている。
K-47 最強の銃 誕生の秘密
K-47 最強の銃 誕生の秘密 | |
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Kalashnikov | |
監督 | コンスタンティン・ブスロフ |
脚本 | セルゲイ・ボドロフ アナトリー・ウソフ |
出演者 | ユーリー・ボリソフ オルガ・ラーマン アルトゥール・スモリアニノフ |
公開 | 2020年 ロシア |
あらすじ
戦車担当の兵士、カラシニコフは1941年、独ソ戦の前線で重傷を負い、前線から引き戻されてしまう。入院中、カラシニコフは自身の前線での経験や同じく前線で活躍していた兵士たちの声を聞く中で国を守り、戦争に勝利するためには優れた自動火器が必要だと考えるようになっていった。
子どもの頃から何かを作ることが好きだったカラシニコフは独学で銃器設計を学び、努力の末ロシア軍のための自動小銃の開発に取り組むことになった。
熱心に自動小銃の開発に取り組むカラシニコフの姿に鉄道機関区で働く職人たちが、「勤務時間外なら手伝う」と言ってくれるのだった。フライス工のエフゲニー・クラフシェンコと旋盤職人のドミートリー、ミーシャと呼ばれる職人と他3人、計6人のちからを借りてカラシニコフはついに、新しい自動小銃の開発に成功するだった。
開発した自動小銃を持ってバサロフ中佐に会いに、カザフスタンのアルマ・アタへ向かったのだが、カラシニコフは開発した自動小銃を懐に忍ばせていたのが誤解を生み、逮捕されてしまいます。
しかし、カラシニコフから没収した自動小銃を見た兵器士官はその革新的なデザインに気づき、評価のためにカザロフという男がいる工房へ送った。
その結果、カラシニコフは無事釈放され、カザロフとユリア少佐と呼ばれる男に、「全ソ銃器設計競技会」に出るよう提案される。
「全ソ銃器設計競技会」とは、全国的な武器デザインコンペティションのことで軍に起用されるためにはこの競技会での優勝が必要だった。
自分で製図をすることが出来ないカラシニコフは大尉のヴァシーリー・リューティ主任技のはからいで工房で働く女性デザインアシスタントのエカテリーナに製図を依頼することになり、カラシニコフは試験の準備期間中、エカテリーナに惹かれていく。
試験の発表前夜。カラシニコフはエカテリーナへの好意を示すのだが「あなたがくれた砂糖、娘が喜ぶわ。私は子持ちなの」と告白される。
そして翌日の試験発表。残念ながら競技会で優勝することは出来なかったが、カラシニコフはヴァーシーリー大尉から、「次の軽機関銃の競技会に備えてカザフスタンで新たな軽機関銃を開発しろ」と新たな任務が言い渡され、開発を続けていくことになる。
熱い開発物語
『K-47 最強の銃 誕生の秘密』の何が面白いかって主人公のカラシニコフがエリートじゃない…ってところだと思う。
カラシニコフは農家の息子で子どもの頃から物を作るのが大好き。どこにでもいそうな少年で大人になってからも「作りたい!」と言う欲求が強く、努力もできる人だった。
そんなカラシニコフの熱い思いに共感して沢山の人達が協力してくれる流れがとても良い。特に前半部。工場で働く職人達が勤務時間外に手を貸してくれるくだりは最高に素敵だ。
身分も低く、学歴もないカラシニコフだったが、彼の能力を見抜いた人達によって引き立てられ、また良きライバルと切磋琢磨していく姿は青春ストーリーって感じで気持ちが良かった。
ロシア人、謎の恋愛感
『K-47 最強の銃 誕生の秘密』は「ものづくりが大好きな若者の青春ストーリー」として観ると面白かったのだけど、恋愛ターンは苦笑ものだった。
ロシア映画って恋愛物苦手なの?
カラシニコフは美しい未亡人エカテリーナに恋をして、彼女もまたカラシニコフの気持ちを受け入れるのだけど、大昔の恋愛ドラマのような古臭さだった。エカテリーナは一応、ツンデレキャラ設定なのだけど、ツンデレにしてはアッサリ過ぎるほどアッサリとデレてしまうし、身持ちが固そうな設定にしてはアッサリと一線を越えちゃっている。
『K-47 最強の銃 誕生の秘密』のメインは銃の開発だから恋愛は添え物…と言ってしまえばそうなのだけど、それにしても展開が雑だったし幼稚過ぎだった。
ロシア映画は数を観ていないので分からないけれど、ロシア人の恋愛観が私達はとは違うのだとすれば「馬鹿にしてゴメン」と言わせてもらうけれど。
人殺しの道具としての銃
カラシニコフの目線に立って観ていると「頑張れカラシニコフ!」「負けるなカラシニコフ!」みたいな気持ちになって、カラシニコフの開発を応援してしまうのだけど、ふと我に返ると「でも、これって人殺しの道具なのよね?」ってところに行き着いてしまう。
作品内では語られていないけれど、実在したカラシニコフは生前に自らが開発したK-47 について「開発したのは誇りだが、殺害行為に使われるのは政治家の責任だ」と話ていたとこのと。さらに晩年にはロシア正教会のトップであるキリル総主教に手紙を送り、AK-47により多数の人命が奪われたことに対する心の痛みを告白している。
武器の開発を賛美するつもりはないけれど、カラシニコフ自身はロシアによって土地を追われている農民の息子で「戦争に勝って平和な世の中にしたい」と言う思いがあったのだと思う。
結局のところ元凶は戦争…ってことだ。
『K-47 最強の銃 誕生の秘密』は「開発物語」として観ると単純に楽しめてしまうけれど、観終わった後で「でも、これって…」と微妙な気持ちになるところまでがワンセット。
本当なら武器開発が必要のない世界が理想だし、そうあって欲しいと思う。