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映画『ピザ!』感想。

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お久しぶりのインド映画。インド映画と言うと『踊るマハラージャ』のような歌って踊りまくる系の作品だったり『バーフバリ』のようにド派手でぶっ飛んだ作品を思い浮かべがちだけど、そうじゃない作品もある。『ピザ!』は踊らないし、ぶっ飛んでもいない系のインド映画。

食べ物をタイトルにしている作品って「映画を観終わった後に食べたくなっちゃうよねみたいな作品が多いと思うのだけど『ピザ!』は観終わってもピザを食べたくなる系ではなかった。

基本的には明るく楽しい作品だったけれど、考えさせられる問題を突っ込んできていて、ハリウッド的ハッピーエンドじゃないところが気に入った。(表面的にはハッピーエンドだけど)

2022年はまだ終わっていないけれど、今年観たアジア系映画で1番良かった…まである。今回はネタバレが含まれるのでネタバレNGの方はご遠慮ください。

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ピザ!

ピザ!
Kaaka Muttai ( The Crow’s Egg)
監督 M.マニカンダン
主演 ヴィグネシュ・
ラメシュ
・アイシュワリヤ・ラジェシュ
撮影 M.マニカンダン
音楽 GV プラカシュ クマール
公開
  • 2014年9月5日(トロント国際映画祭)
  • 2015 年 6 月 5 日(インド)

あらすじ

物語の舞台はインドのチェンナイにあるスラム街の一角。主人公は母親と祖母と暮らす2人の男の子。男の子の父親が理由は不明で刑務所で服役中。

兄弟はスラム街で遊び、カラスの巣から卵を盗んだりして時間を過ごしていた。カラスの玉子を食べるのが好きな兄弟は自分たちをペリヤ カアカ ムッタイ (大きなカラスの卵) やチンナ カアカ ムッタイ (小さなカラスの卵) と呼んでいた。

ある日、兄弟のい絵にテレビがやってくる。それは貧困ライン以下で暮らす配給カード所有者への政府からの贈り物だったが、少年たちはテレビでピザのコマーシャルを見て、ピザを食べたいと思うようになる。

そんな中、スラム街の子ども達の遊び場が潰されピザショップが回転する。ピザショップのオープニングセレモニーには俳優のシランバラサンがやってきた。

兄弟達のピザへの想いはいっそう募り、お金を貯めてピザを食べようと計画する。様々な仕事をして兄弟はピザを買うのに必要な 300 ルピーを手に入れ、お金を握りしめてピザ屋へ行くが警備員に追い出されてしまう。

少年たちは、鉄道のラインマンとして働く友人のパザラサムにこの話ををすると「服装が悪いから入れてくれないのだ」と言われ。兄弟は新しい服を貯めるために再びお金を貯め始めた。

兄弟は祖母にピザ屋のパンフレットを見せると、祖母はドーサ生地をベースに家庭料理のピザを作るのだが、それは兄弟が思い描いていたピザとは別の食べ物だった。

兄弟は様々なトラブルをクリアして、どうにかこうにか新しい服を手に入れ、再びピザ屋に行くのだが、再び警備員に止められてしまう。それどころかピザ店のオーナーの目に止まり、兄は平手打ちを食らってしまう。スラム街の子ども達はその騒動を囃し立て、スマホで動画を撮影する始末だった。

しかしスマホで撮影された動画が思わぬ騒動を巻き起こす。

インドのスラム街での生活

日本人ってインドのことをよく知らない人が多い気がする。私もその中の1人。インドと言えば仏教の発祥地だけど、ヒンズー教徒が多くて、カレーの国で紅茶の国。ガンジス河に浸かってる人がいる…みたいな印象がある。

……とは言うものの、インドの人がどんな生活をしているのか…って事については実のところよく知らない。インドにはカースト制があって貧富の差が激しいとは聞いているけれど『ピザ!』の主人公兄弟はスラム街で暮らしている。

スラム街の人達は貧しい暮らしをしているけれど、子ども達は元気いっぱいで主人公兄弟も遊んだり、石炭を拾う等の仕事をしたりして溌剌としていて「貧乏=不幸」と言うような描かれ方ではなかった。

潰される遊び場と新しい食べ物

ある日、スラム街の遊び場だった場所が突然閉鎖され、あれよあれよと言う間に近代的な建物が建設される。その建物はピザ店でイートインと宅配をしている店だった。

日本人にとってピザは特別な食べ物ではなくて、宅配してもらったり、お店で本格的なものを食べたり、何ならスーパーの冷凍食品コーナーに売っていたりもする訳だけど、兄弟にとっては憧れの食べ物。兄弟がピザを1枚食べるには1ヶ月必死で働いて得たお金をすべて貯金する必要がある。

兄弟にとってピザは手の届かない食べ物だけど、そんなピザを日本人感覚で食べることが出来る人もいる…ってところがインドって国らしい。

私もコロナ禍前に中国旅行に行った時に、1個700円するハーゲンダッツをおやつに食べる富裕層がいる一方で、狭い集合住宅に住んでいて、自転車でリヤカーを引っ張っている人がいるのを見て「格差社会が凄いな…」とビックリしたものだけど、インドの格差は中国を上回るのかな…と思ったりした。

様々な人達との友情

金銭的には豊かとは言えない暮らしをしている兄弟だけど、その生活は大らかさがあって、個性的な友達がいた。印象的だったのは鉄道のラインマンとして働く友人のパザラサム(通称ニンジン)と、名前も知らない富裕層の少年との交流だった。

パザラサムは大人ではあったけれど、どこか少年らしい心持ちの持ち主で兄弟の友達と呼んでいい存在だったし、富裕層の少年とは塀を隔てての交流だったけれどお互いに顔を見ればお喋りをする関係。

富裕層の少年はピザに憧れ兄弟のために、自分の家で食べたピザをこっそり残しておいて「食べていいよ」と持ってくる。富裕層の少年からすると、それは施しではなくて純粋な好意によるものだったのだけど、兄弟は兄は「ピザは施されるのではなく自分で働いたお金で買うのだ」とそれを拒否する。

ピザを持ってきた少年の気持ちも分かったし、兄の気持ちも理解できただけに、なんともやり切れない場面だった。

人を傷付けて成長する子ども

『ピザ!』の中で印象深かったエピソードの1つに兄弟の祖母がピザのチラシの写真を見て「ピザっぽい雰囲気の食べ物」を見よう見まねで作るのだけど、兄弟はそれを食べて「こんなのピザじゃない」と祖母の好意を否定する。

食べたことの無いものを作るなんて土台無理な話。祖母は少しでも孫のために…と工夫したのだけど、祖母の気持ちは伝わらない。

それどころか兄に至っては別の場面で祖母に対して「役立たずだ」だと言うよなう意味の酷い言葉を口にしている。

子どもは天使…と言うけれど一方で残酷さを持ち合わせているのも事実なのだ。そしてその残酷さは「相手を傷つけよう」と言う意思があってのものではなくて、幼さに由来する。もちろん子どもも成長していくうちに、そんな幼い残酷さから卒業していく。

『ピザ!』の中で兄弟の祖母は唐突に他界し、兄は祖母に優しくできなかった自分を後悔する。誰かを傷つけて成長する子どもの姿を上手く描いているな…と感心した。

憧れのピザとの結末

さて。ここからは盛大にネタバレ…と言うかオチの公開ターンなので「ラストを知りたくない」って方はご遠慮戴きたい。

兄弟はお金を貯めてピザ店に行ったのだけど、店に入れてもらえないどころか兄は店主から殴られる始末。しかし、兄が殴られた動画が拡散されインド中で問題となる。インドでも子どもの虐待はNGらしい。

ピザ店の店主は炎上を抑えるために兄弟を店に招待して「あの時は悪かった。君たちはこれからいつでもタダでピザを食べていい」と言うのだけど、兄弟はピザを手に取ろうとしなかった。そこでピザ店主は自ら兄の口元にピザを持っていき、兄はようやく口を開け、ピザを食べることになる。

……パッと見ではハッピーエンドなのだけど、兄は富裕層の少年からピザを勧められた時は「自分で働いて得たお金でピザを買う」と宣言していたので「えっ? それ食べちゃうの?」と少し意外な気がした。そりゃあ、富裕層の少年のピザは食べ残しを残しておいた物で、目の前にあるピザは新しいものだったけれど「施しである」と言う観点ではどちらも同じなのだ。

思うに。これがハリウッド映画だったり、日本映画だったりしたら「施しは受けません。僕は自分で働いたお金でピザを買います」と言わせた気がするのだけど、インド映画でここまでやっちゃうと逆にリアリティがなさ過ぎるのかな…と思った。

とりあえず兄弟が不幸な目に合わなくて良かったけれど「超ハッピーエンドだったか?」と言われるとそうでもない気がする。兄弟の父親はいまだ服役中だし、なんだかんだ生活の頼りにしていた祖母は死んじゃって、兄弟と母との生活が楽になる要素は1つもないのだ。

超ハッピーエンドかと言うと、そうでもない気がするけれど「子どもが大活躍する映画」としてはなかなかのものだし「インドと言う国を知る」って意味でも良い作品だと思う。91分と短めなので興味のある方は機会があれば気楽に視聴して戴きたい。

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