『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』は実在の人物である高岡智照をモデルにした物語。
高岡智照は瀬戸内寂聴の小説『女徳』のモデルにもなった女性とのことだけど、私は『女徳』を読んでいないので、前知識の無い状態で挑んだ。
「波乱万丈の物語なのだろうなぁ」と予想していたけれど、予想していた以上に波乱万丈な物語でテンポ良く読み進めることができた。
朱より赤く 高岡智照尼の生涯
- 新橋の人気芸妓から、のちに京都で尼僧になった女性高岡智照の半生を描いた作品。
- 高岡智照は私生児として生まれ、父に騙されるような形で置屋に売られてしまうが、その美貌からアッという間に人気芸妓にのし上がる。
- 芸妓時代は情夫への義理立てに小指をつめたことで有名になり、その美貌から絵葉書のモデルとしても人気を集める。
- 北浜の相場師で映画会社も経営していた男と結婚し、夫について渡米するが、その結婚生活幸せなものではなかった。そして…
感想
『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』の主人公である高岡智照は恋多き女が様々な経験をした後に出家して尼僧になった…ってことで、瀬戸内寂聴と並べて語られることが多いようだけど、高岡智照と瀬戸内寂聴は似ても似つかないと思う。
「恋多き女」ってところで惑わされてしまうけれど、自分の意思ではなく親に売られて芸妓になった高岡智照と、仏壇屋だった両親の元で学校に通わせてもらっていた瀬戸内寂聴では出発点からして違い過ぎる。
私生児として生まれ、芸妓に生まれた…って時点で人生ハードモード。高岡智照は「小指を切った芸者」として知られているようだけど、時代的には想い人に小指を切って渡すブームは終わっていて、それでもなお想い人に小指を切って渡してしまうほどには一途で情熱的な人だったのだと思う。
『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』は窪美澄の小説として…と言うよりも、伝記物として面白く読ませてもらった。
残念だったのは幼少期から華やかな時代は濃厚に書いているのに、出家を決意してからのくだりとその後は駆け足で書かれていた…ってこと。宮尾登美子なら、その辺りをしっとり書いてくれたのかな…なんて事を思ってしまった。
それにしても、窪美澄はなかなかの野心家だな…と感心してしまった。瀬戸内寂聴の『女徳』があっても「私ならもっと良い作品が書ける」と思ったからこそ、ぶつけてきたのだと思う。
窪美澄はかつて『さよなら、ニルヴァーナ』で酒鬼薔薇事件をヨイショするような作品を書いている。あの時も「そこまでして、有名になりたいの?」と思ったけれど、たぶん窪美澄は「そこまでして有名になりたい人」なのだろうなぁ。ちなみに、窪美澄は 『夜に星を放つ』で第167回直木賞の候補になっている。
窪美澄のガツガツ感は個人的には評価したいものの、なんかこぅ…直木賞はあげたくないような気持ちになってしまった。窪美澄は心の底から高岡智照尼のことを書きたかったのかな?
なかなかに楽しく読ませてもらったものの、窪美澄の姿勢とか作風には疑問を抱かずにはいられなかった。それでも私は窪美澄が何か書いたら「全部読読む」とまではいかなくても、それなりに期待して読んでしまうと思う。
窪美澄…なかなか良い作家さんだとは思うものの信頼はしていない。