『ブラックボックス』は第166回芥川龍之介賞の受賞作。作者の砂川文次は元自衛官とのこと。『ブラックボックス』の主人公も元自衛官。
『ブラックボックス』は「主人公=作者」と言うタイプの作品ではなさそうだけど、作者の内面に迫る作品と考えても良いのかも知れない。
コロナ禍の日本で非正規雇用のメッセンジャーとして、自転車を走らせる…と言う設定は、いかにも今風ではあったけれど、私はイマイチ楽しむことができなかった。
ブラックボックス
- 主人公のサクマは元自衛官。退官して非正規雇用でメッセンジャーとし働いていた。
- ある日サクマは自分の中の衝動を抑えることが出来なくなり暴力事件を起こしてしまう。
- メッセンジャーとしての生活と、刑務所内での生活の二部構成でサクマの内面を描いていく。
感想
芥川賞受賞作ってことで読んでみたけど「芥川賞を取るほどの作品なのかな?」と疑問に思ってしまった。
「コロナ禍と現代日本を描いた作品である」と言ってしまえばそれまでだけど、一事が万事未熟な印象を受けてた。
ます気になったのは「メッセンジャーとして働いていた前半分と刑務所生活を描いた後半部分は別の小説でも良かったのでは?」ってこと。そして前半は自転車ウンチクに終止していて、自転車好きならともかく、そうじゃない人間からすると読むのが軽く苦痛だった。
メッセンジャーの生活と刑務所を繋ぐのは主人公の暴力事件なのだけど、暴力の解釈についてはあまり共感できなかった。『ブラックボックス』はなんとなく西村賢太の方向性と似ているのだけど「突然切れ散らかす人の描写」については西村賢太の方が断然上。
物語の方向性が違うとは言うものの、西村賢太の描く寛太は突然恋人の秋子に殴る蹴るの暴力をこおなうクズなのだけど、西村賢太がクズをクズとして清々しいまでに描き切ったのに対し、砂川文次はの暴力描写はどことなく「逃げ」のようなものを感じた。
- 社会が悪いからこうなった。
- よく分からない衝動(ブラックボックス)があるからこうなった。
……「そうでしょうとも」としか言えないのだけど「社会が悪い」「よく分からないけど人間ってこんなもの」あたりで止まってしまっていては文学として弱い気がする。
砂川文次は「元自衛官の作家」という触れ込みで出てきているので、一般人とは違う独特な視点を期待していただけに、ガッカリしてしまった。
先に読んだ『臆病な都市』もイマイチ好きになれなかったし、要するに私は砂川文次の作風が好きじゃないのだと思う。
次回作以降はよほど話題になれば手に取るかも知れないけれど「砂川文次はもういいかな」と思っている。