若合春侑の作品はエロ抜き、かつ普通の言葉で書いた物の方が面白いんじゃないかと思う。
初めて読んだ若合春侑の作品がエロでも昔言葉調でもないのに、かなり良かったので他の作品にも手を出すようになった事を思い出した。
個人的な好き嫌いに大きく影響しているとは思うが、凝り過ぎた作品よりも、かえって味わい深くて良いように思った。
海馬の助走
父親は、あの台風の三日後、家から消えた。「畜生、俺は負げねぇ」 綜一は光を求め駆け出した-。著者の父の自叙伝をベースにした表題作、同じく父をモデルにした「掌の小石」の2編を収録。
アマゾンより引用
感想
表題作、収録作ともに主人公は若合春侑の父親がモデルになっているとのこと。
なんとなく山本有三の『路傍の石』を思い出してしまった。
勿論、物語の筋は全然違うのだけれど。「ひたむきに生きる少年の姿」に胸が熱くなってしまった。こういう物語は時代背景ならではだと思う。
現代が舞台だと、なかなかこうはいかないし、よしんば、こんな風に引っ張っていかれたら気持ちが醒めてしまうだろう。
残念だったのはラストがイマイチだったこと。敢えて切りっ放しにしたのだろうが、締まりがなく、だらしない印象を受けた。
個人的には表題作より、収録作の『掌の小石』の方が好きだった。
「恋」と呼ぶには、淡過ぎる、ほのかな気持ちと、少年の成長とが上手いこと描かれていた。
雇い主の妻である幼馴染の出産のくだりは、女性作家さんにしか描けない上手さだと思う。
人情系に走りがちな内容を、グッと押えて描いていたのも好印象。生きることの哀しさを、そこはかとなく感じることの出来る秀作だと思う。
若合春侑の書いた、真っ直ぐに向かっていくタイプの小説なら、また読みたい。
エロティックな路線も、ある意味において真っ直ぐだとは思うが、どうも作り過ぎて空回りしている気がするのだ。
今回の作品は良かったので、次回作に期待したい。