吉行淳之介と言えば、男前で女たらしで、宮城まり子の愛人で、作品のテーマは、とりとえず「性愛」というイメージがあった。
それだけに『子供の領分』は普通の小説も書いていたのだと目から鱗の1冊だった。
題名の通り「子供」を主人公にしたものばかりを集めた短編集。なかなか上手い。切れ味最高。
子供の領分
少年と父と二人きりのはずだった旅。しかし、島へ渡る船で父の傍に坐った若い女は…。心の波立ちを描いた「夏の休暇」ほか、少年の眼に映る世界を鮮明な筆致で追う短篇9篇を収録。
アマゾンより引用
感想
一般的に「実力のある作家は短編が上手い」と言われるけれど、正直なところ20代の頃はその意味が良く分からなかった。
読み手は短編よりも長編を読む方が労力が必要なので、なんとなく「長編=大作=難しい」という図式が自分の頭の中で出来ていたのだろう。
しかし、よくよく考えてみると「面白い長編」を探すよりも、「面白い短編」を探す方が断然難しいのだ。物量作戦で読み倒していったところで、なかなか面白い短編にはめぐり合えないのだ。
この短編集に収録されている作品は、どれもこれも素晴らしかった。贅肉をそぎ落として血肉だけで勝負したという感じ。
シンプルなのに、1つ1つのエピソードは正確にイメージが浮かんでくるし、作品を流れる空気も良い。教科書向きだと思う。私が教科書編集をしていたら、この短編集の中から1つチョイスしたい。
もっとも、教科書に乗っている短編を読んで「おおっ。これは素晴らしいや」と思える児童や学生がいるかどうかは激しく疑問なのだけれど。
ちなみに私はその当時「教科書に乗ってる作品ってツマラナイ」と思っていた。もちろん印象深い作品もあったけれど、ツマラナイと感じた作品の方が多かった。
夏に読むといいんじゃないかなぁ……と思う。登
場人物は「子供」だと書いたが、正確には「少年」だったのだ。夏といえば少年の成長。スタンドバイミーの世界。などと思いながら、夏の読書を堪能させてもらった。