『天切り松 闇がたり』シリーズ3冊目。ちょっとネタが苦しくなってきたのかも。
面白い話と、そうでない話の差が大きいように思った。大風呂敷の匙加減を微妙に失敗したと言うか。
突っ込んではいけないお約束……のはずなのに、ついつい「そりゃないぜ、セニョール」と呟いてしまうほどに。
天切り松 闇がたり 第三巻 初湯千両
「武勇伝なんぞするやつァ、戦をしたうちにへえるものか」二百三高地の激戦を生きのびた男はそうつぶやいた……。
シベリア出兵で戦死した兵士の遺族を助ける説教寅の男気を描く表題作「初湯千両」など、華やかな大正ロマンの陰で、時代の大きなうねりに翻弄される庶民に対する、粋でいなせな怪盗たちの物語六編。
誇りと信義に命を賭けた目細の安吉一家の大活躍。堂々の傑作シリーズ第三弾。
アマゾンより引用
感想
「ネタが苦しくなってきたかも」と言いつつ、ツボ直撃の作品はかなり良かった。
『道化の恋文』は、切なかったなぁ。身分の差とか、そういうことをリアルに感じることのなくなった現代では、あり得ない話だが、時代が時代なだけに。
「恋の痛み」を抱ええて、人は大きくなっていくのだろう。道化師の父親がカードに書いた言葉は、ちょっと泣けた。
『銀次蔭盃』では、安吉親分が主人公である松蔵を可愛がっていた理由が、はじめて分かったように思う。
愛だね……愛。
むしろ、愛ではなく情の世界か。誰かから愛されていたという記憶や、大切にされていたという思い出は、こうも人を強くさせるんだなぁ……とて、しみじみ。
浅田次郎に情のある「男」を書かせたら天下一品だなぁ……と思う。
強い男、カッコイイ男。男にも色々なタイプがあり、またそれぞれに魅力的ではあるのだけれど、個人的には「情」のある男が好きだ。うっかり本気で惚れてしまいそうだ。
もっとも、浅田次郎の世界にリアリティはほとんど無い。
「そんな男いない」「そんな女いない」ってのが本当のところ。現実に生きる人間は、もっと複雑な感情を持っていて、もっと汚く生きている。
だけど、そんな人々の中にも「そういう感情もあるんだよね」ってことを引き出してくれるところが、次郎の世界の良さだと思う。
いっこくも早く続きが読みたい。