吉屋信子と言えば少女小説の元祖といったイメージがあるけれども流石にリアルタイムでは知らなくて田辺聖子の『ゆめはるか吉屋信子』を読んでから、にわかに気になっていて、やっと手にとってみたのだが、これが以外と面白かった。
やはり少女小説なだけあって「素」で読めばツッコミポイント満載なのだがエンターテイメントとしては、充分に面白いと思う。
タイプは全くことなるが菊池寛の『真珠夫人』にも通じるところはあるかも知れない。
暁の聖歌
- 父と母を知らずに育った少女が主人公。
- 幼友達ミナや女学校で出会った“憧れのお姉様”柿沼さん等、魅力的な少女が多数登場する。
- そして母との涙の対面…
感想
乙女チック、浪漫チックな物語で、宝塚歌劇を観るノリで読むのが良いと思う
甘すぎる感はあるものの、なにをおいても日本語の美しさは秀逸。日本人は、かくも美しい言葉を持っていたのだということを再認識した。
私自身、かなりいい加減な言葉遣いをしているだけに登場人物達の美しい言葉には、ただ圧倒されてしまった。
少女小説というと、どうも純文学より一段低く思われがちだが、少女達を魅了するだけのものはあると思った。
起承転結がはっきりしていて、物語の構成がとても上手い。じっくり読んでみれば、基本に忠実な作りになっていることがよく分かる。
だいたいからして、幼い人を夢中にさせる読み物というのはそれだけで充分に実力のある作品だということなのだ。最近では『ハリー・ポッター』などがいい例かも知れない。
また、中原淳一の挿絵も「をとめ」らしくて、とてもよかった。
こういう手法が少女漫画の原型なのかも知れないなぁ……と思う。
文章だけだと、どうしても理詰めで読んでしまいがちな作品も美しいイラストが入ると、理屈よりも感覚的な部分に訴える面が多くて文章だけの小説を読むのとは違った楽しみがある。
私はこの作品が吉屋信子デビューなのだが、代表作の『花物語』も読んでみたいと思った。
なんだかんだ言って、浪漫ちっく&ドラマチックが好きなんだなぁ……と思い知らされた1冊だった。吉屋信子の他の作品の感想も読んでみる