『空芯手帳』は第36回太宰治賞受賞作。題名になっている「空芯」とは偽装妊娠と紙管(主人公は紙管会社で働いている)ことの暗喩になっている。
OLの偽装妊娠と言う、今まで見たとこのない設定であることを知って「これは読まなければ」と手に取った。
空芯手帳
- 主人公、柴田は紙管会社で働く34歳のOL。
- 雑用やセクハラに嫌気が指した柴田は「妊娠しました」と嘘をつき、偽装妊婦の生活をはじめる。
感想
主人公を取り巻く描写がなんともリアルで面白かった。
34歳OLの柴田は独身OLとして働くことに嫌気が指して、偽装妊娠生活をスタートさせるのだけど、柴田の気持ちは痛いほど理解出来る。
私は既婚者でパート勤務だけど、結婚したのは33歳の時。独身OLの扱いの酷さ…と言うか、割りに合わない感じは身に沁みて知っている。
「主婦だって大変だ」「子育ては大変だ」って意見もあるとは思うのだけど、私は独身時代の方がしんどかったし、正直「今は楽だな」と感じている。もちろん主婦なり、母親なりの大変さはあるけれど、世の中には「独身OLは世の中で1番気楽な存在である」と思っている人が多いのか、独身OLってだけで扱いが雑になると色々と割りに合わないことが多いのだ。
主人公の柴田もそう感じていた1人のようで、そんな生活に嫌気が指して偽装妊娠生活をスタートさせる。
柴田は偽装妊娠生活を楽しんでいくのだけど、これにつていは「そりゃそうだよね。だって妊娠してないんだもの」の一言に尽きる。ただ、妊婦を装って生活する中で、柴田の中での考え方や感じ方が少しずつ変化していくのは面白いと思った。
話の進め方が上手いしサクサク読めて途中までグッと引き込まれたのだけど、私は作品を読み進めながらずっと気になっていた。「ところで最後はどうなるの?」と。
偽装妊娠の場合、当然ながら柴田のお腹の中に子どもはいないのだ。
……となると、赤ちゃんがお腹の中で死んでしまったことにするか、そうでなければ「生まれてすぐに里子に出した」みたいな言い訳をする必要がある。生まれていないない子どもの出生届は出せないし、会社に扶養の申告とか出せないではないか。
最後までずっとずっと「どんな風にオチを持ってくるのだろう?」と気にしながら読み進めたのだけど、かなり驚きの結末が用意されていた。
このノリの作品が好きな人もいるかと思うのだけど、私はラストで一気に熱が冷めてしまった。今回はネタバレを避けたいので、ラストは伏せておくけれど、このオチで太宰治賞を受賞したのかと思うとある意味興味深いものがある。
- 妊娠舐めんな!
- 出産舐めんな!
- 会社舐めんな!
ある種のファンタジーとして読むならアリかも知れない結末だったけれど、私には無理だった。
スキルただ、作品の原点となる発想や文章の感じは嫌いじゃないので八木詠美の次の作品に期待したい。