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一人称単数 村上春樹 文藝春秋

お久しぶりの村上春樹。『騎士団長殺し』からだと3年ぶりの新作。今回は新作と言っても長編小説ではなく短編集で、短編集的には6年ぶり。ファン待望の1冊だと言っても良いと思う。

…なんてことを書いておいて恐縮だけど、私は村上春樹のファンって訳じゃない。長く一線で走り続ける作家として敬意を持っているけれど、いざ感想を書くとなると下品な感想しか書けないので、村上春樹が大好きな方はご遠慮ください。

「好きじゃないなら読まなければ良いのでは?」って話だけど、村上春樹の新刊は祭りに参加するのと同じって感じのノリなので「とりあえず読む」みたいな流れで読まずにはいられないのだ。

『一人称単数』今回も村上春樹らしい短編集だと妙に感心してしまった。

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一人称単数

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ザックリとこんな内容
  • 表題作他、「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」「ヤクルト・スワローズ詩集」「謝肉祭(Carnaval)」「品川猿の告白」8作からなる短篇小説集。
  • 主人公は毎度おなじみの20代のヤング男子。もしくは若い頃を回想して描くスタイル。
  • どこを切っても村上春樹が楽しめる、村上春樹感の濃い1冊。

感想

『一人称単数』が発売された2020年秋現在、村上春樹は71歳。もう老人と呼ばれても結年齢なのに、相変わらずの熱量に恐れていった。

本を開いて最初に出てくる「石のまくらに」は開幕セックスである。これぞ村上春樹。老いてなお若者のセックスを描いてくるあたり、実に素晴らしい。

「ねえ、いっちやうときに、ひょっとしてほかの男性の名前を呼んじゃうかもしれなけど、それはかまわない?」

『一人称単数』「石のまくらに」より引用

……村上春樹って、毎年ノーベル賞の発表があるたびに「今年こそノーベル文学賞を」みたいな集いが開かれるし、なんだかんだ大御所枠なので高尚な文学者ポジションに思われがちだけど、けっこう下品だと思う。

だけど、このスタイルは今にはじまったことじゃない。村上春樹はずっとこのスタイルを貫いてきたのだ。好き嫌いはさておき、作家として同じスタイルの文学を発表し続けている…って素晴らしいことだと思う。

それでこそ、私達の村上春樹だ。

だけど残念ながら、今回は村上春樹に「老い」を感じてしまった。まずは、この一節を読んで戴きたい。

ある日の午後、僕は彼女のふっくらとした小さな唇にキスをして、ブラジャーの上から彼女の乳房に手を触れた。彼女は白いノースリーブのワンピースを着ていて、髪は柑橘系のシャンプーの匂いがした。

『一人称単数』「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」より引用

……こんなチンケな文章で新人賞に応募したら下読み段階で落とされると思う。

  • ふっくらとした小さな唇
  • 白いノースリーブのワンピース
  • 髪は柑橘系のシャンプーの匂い

こんな表現、同人誌出してるようなヲタク作家だって書ける、安っぽい女の子のイメージでしかない。大御所作家だらか許された一節だったと思うのだけど、私が編集者だったら「ここの表現、ありきたり過ぎですよね。もう少し考えて戴けませんか?」って言ってしまうかも知れない。

残念ながら『一人称単数』に収録された短編は「使い古されたありきたりな表現」のオンパレードだった。

「ありきたりなのが良いんだよ。安心するんだよ」って意見もあるかと思うので、頭から否定する気はない。

もはや村上春樹の文学は忠臣蔵や新選組の話も結末も知っているのに、テレビで時代劇スペシャルを観てしまうようなノリで楽しむべきものなのかも知れない。

私達はもう、村上春樹を偉大なるテンプレ小説として楽しむべきフェーズに突入しているのかも知れない。

……と好き勝手書かせてもらったけれど、それでも私は村上春樹に対して敬意を持っているし、年齢を重ねてもなお、元気に村上春樹の世界を書き続けて戴きたいと心から願う。

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白い木蓮の花の下で
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