三砂ちづるは初挑戦の作家さん。
『月の小屋』は女性を主人公にした物語ばかり集めた短編集。なかなか興味深い1冊だった。
主人公の設定に偏りがあるのが少し気になったけれど、1つのテーマを追求して書いていったのであれば、仕方が無い事なのかも知れない。
個人的には是非、女性に読んでもらいたいと思う作品だった。
月の小屋
38歳になった彼女は、断固として12月24日からお正月休みをとることに決めた。
不思議な摂食障害を描く表題作ほか。アマゾンより引用
感想
もっとも興味深く読んだのは題名の元になった『小屋』。かつて女性が月経中「穢れているから」と、隔離されていた小屋の話なのだけど、私としては「目から鱗」だった。
月経中や出産時に女性が隔離されたのはよく聞く話なのだけど、たいていは「女性差別」がテーマになっている。
だが、この作品で隔離されていた当事者は「あの小屋は楽しかった」と語るのだ。
理由は「家族から離れて、のんびり過ごせるから」とのこと。なんだかすごく腑に落ちた。もし私にも月に数日間、家族と離れて過ごす時間があったとしたら……と想像してみた。
……案外、悪く無い。
まぁ、これは事実の側面に過ぎないのかも知れないけれど、こういう発想って全くなかったので面白かった。
他に気に入ったのは『そうじする人』という作品。
プロの片付け屋さんの話なのだけど「そうじは自分のためにするのではなく、残された人のためにする」ってコンセプトが私の考え方と似ていて、ちょっと気に入ってしまった。
人の死の後始末をした事のある人なら、多少は同意出来る話しじゃないかと思う。
どの作品も視点がちょっと変わっていて面白かったのだけど「女性は子ども産んでこそ幸せ」的な意図が見え隠れしているのは、正直いただけなかった。
私も娘を持つ親なので、子どもを産み育てる幸せは格別なものだと思っているけれど「それが最高!」と声高らかに叫ばれると「それはちょっと……」と尻込みしてしまう。
三砂ちづるの書く文章は、ちょっと押しつけがましいところがある。
興味深い作品であると同時に、実に鬱陶しい作品どもあった。
でも、機会があれば三砂ちづるの書く別の作品も読んでみたいと思う。