「熊の敷石」という言葉を聞いても浅学な私は何1つピンとこなかったのだけれど、ヨーロッパ(国ごとにパターンが違う)では寓話にちなんだ言葉……というかコトワザのような物らしい。
「無知な友人を持つこと」とか「主人をも殺してしまう過度の力」を意味するそうだ。
主人公は日本人だが、フランスが舞台で、ナチスドイツの話が見え隠れする小説だった。
熊の敷石
「なんとなく」という感覚に支えられた違和と理解。そんな人とのつながりはあるのだろうか。
フランス滞在中、旧友ヤンを田舎に訪ねた私が出会ったのは、友につらなるユダヤ人の歴史と経験、そして家主の女性と目の見えない幼い息子だった。
芥川賞受賞の表題作をはじめ、人生の真実を静かに照らしだす作品集。
アマゾンより引用
感想
ナチスの話が出てくるわりに、その部分が至極あっさり描かれていたのが、やけに新鮮だった。
ナチスを絡めた物語というのは、嫌が応でも表現が濃くなってしまうことが多いのに、その気配だけを漂うように含ませていたのには見事だと思った。
私達の世代が感じるナチスの気配の分だけを描いているというような。
私はヨーロッパの事情に詳しくないのだけれど、現実はこんなものなのかも知れない。作者はフランス文学の先生なので、その辺の事情を踏まえて書いたのかも知れない。
この作品は芥川賞の受賞作らしいのだが、なるほど芥川賞っぽい。
ちょっと訳の分からない内容だけど、文章的には綺麗に纏まっていて折り目正しく、どことなく「頭良さげ」な感じが漂う作品……という感じで。もっとも近頃は芥川賞に選ばれる作品の傾向が、少しづつ変わっているようなのだが。
私は分かりやすい物語も好きだが、漂うような、ほんのり香りだけが残るような物語も好きだ。
堀江敏幸さんってば、ちょっと良い感じ。良い感じだけど、イマイチ流行そうにない予感もする。追いかけててみもいいかも知れない。
須賀敦子と路線が違うけれど文章の質で言うなら同類項かも。力のある作家さんだと思う。
表紙の装丁と、物語の内容がシンクロしているところも良かった。
読み始めた時は「この表紙は小説のイメージに合わないね」と思ったものだが、なるほど納得。表紙の装丁には作者自身も参加していたというのも頷ける。
けだるいフランス映画がお好みの方にオススメしたい1冊。ド派手な物語に飽きちゃった人にも良いかも。