やっぱ好きだなぁ。吉村昭の作品って。
地味で面白味のない短編集だったのだが、なにげない小技が効いていて、ちょっとツボだった。作者の作品は基本的に長編の方が面白いと思うのだが、短編も案外悪くない。
そして、この短編集の「ウリ」は、何をおいてもの「原稿用紙にして10枚以下の超短編」だってうことだろう。
私はあとがきを読むまで、まったく気づかなかったのだけれど。
天に遊ぶ
確かに「いくら短編といっても、ちょっと尻切れトンボ過ぎやしないかい?」って思う作品があって不思議に思っていたのだけれど「10枚以下の短編集」という企画だと知って、なるほど納得。
こういう試みも面白い。
そして短さという枷を頭の隅っこに置いて読んでみて初めて、その上手さに驚かされた。10枚でも、ちゃんと小説の形になっているのだから。
教科書に載っていたり、小説の教本に使われてもいいかも知れないな……と思えるほどの作品もあった。
肝心の内容は「まぁ。そこそこ」という程度。
この作家さんは地味な職人芸が好きで追いかけているのだけれど、今回は「人の気配を描くのが上手い」ってことに気が付いた。
幼い頃に事故で弟を死なせてしまい、後悔を抱えながら生きてきたであろう男と、何十年ぶりかに法事で対面する……という作品が、この本の中で1番のお気に入りなのだが「お経をあげる男」の様子に、彼が背負ってきた歳月の重さを感じた……というくだりに巧みの技を感じた。
この作品に限らず、吉村昭は何気ない人の行動から「その人の抱えてきたもの」をチラリと覗かせるのが好きみたいだ。そして私は、そんな手法が好きなのだけど。
ただこの本は「10枚以下の短編集」なだけに、作者のファンや、屁理屈好きの本読みには楽しめるだろうが、そうでなければ、つまらないんじゃないかと思う。
1冊の本としてみると、自分の懐を痛めてまで買いたいかというと微妙なラインかも知れない。
すごく感動した訳でもなく、面白かった訳でもなかったが、試みとして面白い1冊だと思った。