先日読んだ『土に贖う』が猛烈に面白かったので続けて読んでみた。
『土に贖う』は短編集だったけど『肉弾』は長編小説。物語の舞台が北海道なのは変わらない。
作者、河﨑明子は北海道と言う土地に徹底的にこだわっていく人みたいだ。そういう方向性、嫌いじゃない。(と言うか、むしろ大好き)
肉弾 河﨑明子
- 主人公の貴美也は大学を休学中のニート。
- 豪放でワンマンな父親のもとで育った親に反発しながらも庇護下から抜け出せずにいる。
- ある日、父親は貴美也を北海道での狩猟に連れ出す。
- 地元ガイドの話を無視し、大物の雄鹿を仕留めるために、父子はカルデラ地帯の奥深く分け入っていく。
- そこに突然の熊が襲いかかってくる。取
感想
『肉弾』はデビュー作『颶風の王』に続く2作目とのこと。
私が大感激した『土に贖う』より未熟なな感じだけど、それだけ作家として成長していると言うことだと思う。
『肉弾』の感想をザックリ言うならこの2つに尽きる
- ヒグマ怖い
- 犬は可愛い
父親に連れられて、狩りに出た主人公の貴美也が人間に捨てられたり、逃げ出したりして山で野生化した犬達と共に、父親を喰い殺したヒグマと戦う物語。
ヒグマが登場する小説は不思議と名作が多い。私は名作ぞろいのヒグマ登場作品の中では吉村昭の『羆嵐』が最高だと思っている。
『肉弾』は数あるヒグマ登場小説の中では「まあまあくらい」の面白さだと思う。
残念なことにリアリティに欠けるのだ。
物語の筋書き自体は面白いのだけどツッコミどころが多過ぎる。
- ニートがヒグマと戦う力ってある?
- 野犬化した犬が簡単に懐くかな?
- ……てかチワワが北海道の大自然の中で生き残るのは無理なのでは?
……等、設定的にはガバガバなので、リアリティを追及して読みたい派の方にはまったくオススメ出来ない。
しかし私は設定の甘さは気にならなかったし、むしろ北海道と言う土地が生き生きと描かれていることに好感を持った。
『肉弾』ではたくんさの動物が登場するけれど、特に印象的なのはヒグマと犬。そして昔話として登場するブタ。
このブタのエピソードは猛烈に怖い。
今回はネタバレを避けたいので、伏せておくけれど「やっぱり動物って怖いな」と思い知らされた。
作者の河﨑明子は北海道の牧場で羊を飼っているとのこと。動物のことをよく知っている作者だかにこそ描くことが出来た世界だと思う。
物語のメインはニートの青年がヒグマと戦うところにあると思うのだけど、そこにあえて「犬」を突っ込んできたのは良かったと思う。
30代、40代のアニメ育ちは『銀牙 流れ星銀』を連想しちゃうこと間違いなし。
ただし『肉弾』は漫画でもアニメでもないので犬は『銀牙 流れ星銀』ほど派手に活躍しないのだけど。
元ペットの犬が野犬化する問題は日本全国であるようだけど、北海道でも問題になっているとは知らなかった!
野犬の設定については上手く生かされているとは言い難い部分があるけれど、人間に飼われていた犬達が山へ入っていくまでのエピソードは考えさせられるものがあった。
全体的にみると、少しとっ散らかった感じがあるものの、グイグイ読ませる文章なので飽きることなく一気読みすることが出来た。
個人的には『土に贖う』や『颶風の王』ほどの感動はなかったけれども、河﨑明子と言う作家を知ると言う意味では読んで良かったと思える1冊だった。