これはちょっと肩透かしとしか言いようのない作品だった。
草壁皇子を描いたファンタスティックな小説で、私がもっとも苦手とする「口当たりが良くてフワフワと軽い、なんちゃってファンタジーの世界」だったのだ。
文章は綺麗だし、それなりにまとまっているのだ「なんちゃってファンタジー」とまで書くと失礼な気はするのだけれど、梨木香歩自身が売り物としてではなく、趣味で出した本……というつもりで出版したようなので、辛口になるのも致し方なく。
丹生都比売
持統天皇の治世を舞台に、丹生都比売という姫神と、水と、銀とに彩られた、草壁皇子の少年の日々を描く。
アマゾンより引用
感想
自分の書きたいテーマを追ったり、趣味の世界に走るのが悪いとは言わないけれど、せめて自費出版あたりにして流通には乗せないで欲しい……と思ってしまった。
歴史小説とも文学作品とも言い難い、草壁皇子ファンブックってノリだ。
どんなに素敵な世界感があったとしても、売り物の文章と、そうでない文章との間には深くて暗い川がある。
作者の「草壁皇子を愛してやまない」という気持ちはよく分かったし、装丁も綺麗だし、本としては悪くないけど、それでもやっぱり「しょせん趣味の世界だよね」という印象。
失礼ながら、歴史系の物語を好む同人誌作家さんの作品かと思ってしまったほどに。児童向けなのだ。
出版社も商売なので梨木香歩なら間違いないと出版したとは思うのだけど、それにしても……。
前回読んだ作品が良かった分だけ、ガッカリ度の高い1冊となった。