長野まゆみの作風と題名から「デパートを舞台にした懐古主義的なゆるふわちょっといい話」に違いないと予想して読み始めたのだけど、いい意味で予想を裏切られてしまった。
意外にも真面目なデパート読本だった。
長野まゆみ自身がデパートで働いていた事があると言うだけあって、デパート愛に溢れる熱い作品だ。
あのころのデパート
実は私、デパートに勤めていました。
幼い頃は“よそゆき”を着て、家族でおでかけするのが休日のお楽しみ。お子様ランチを食べたあとは、屋上遊園地へ。
それから十数年後、百貨店員となり、その裏側をたっぷりと経験した。独特の流儀、厳しい労働環境、困ったお客さま…。そして今、ひとりの消費者として思うこと。
時代を越えて見つめ続けたデパートの姿とは。懐かしさと驚きが満載!
アマゾンより引用
感想
デパート……とは言うものの、この作品に登場するデパートは東京限定なので、関西に住む私にはまったく馴染みが無い場所ばかりだった。
世代的な問題で共感出来る部分も少なく、甘いノスタルジーに浸る事は出来なかったけれど「デパートの空気感」と言うのだろうか。「デパートあるある」として読むには十分面白かった。
研究本と言う訳ではないのでエピソードに一貫性は無い。
客の目から見たデパートの話が出てきたかと思えば、作者自身が働いていた時のエピソードが入ってきたり、現在のデパート事情が書かれたりと構成的としてはイマイチ読みにくい気がした。
しかし、私はこれはこれで面白かった。雑と言えば雑な作りだけれど、デパートで働いたことのあるデパート好きな人から話を聞かせてもらっているような、そんな気軽さで読むことが出来た。
行きつ戻りつ、あれこれとデパートにまつわる事が書かれていたけれど、なんだかんだ言っても「デパートのサービスは素敵」って部分と「昔の日本人にはケとハレを使い分ける美意識があった」という事が、言葉を変えて何度も語られている。
たぶん、長野まゆみは日頃からこの2点について強く思うところがあるのだろう。まぁ、分からなくもない。
現在、私自身はデパートで買い物をすることもないし、よほどの事が無ければ足を運ぶことさえない。
しかし、子どもの頃に家族でデパートに行った時の特別感は今でも覚えているし、学生時代にはデパート内の高級甘党茶屋でアルバイトをしていた。
行かなくなったとは言うものの、なんだかんだ言って私もデパートが好きなんだなぁ……なんて事を思った。
昭和生まれでデパートの好きな人に読んで欲しい1冊。ものすごく感動する訳でもなければ、為になる作品でもないけれど「ちょっと楽しい」作品だと思う。
あのころのデパート 長野まゆみ 新潮社
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