お盆休み最終日。台風襲来のため自宅で過ごすことになったので、TSUTAYAでDVDや漫画を大人借り。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』はずっと観たいと思っていた作品。
小学校6年生の娘にも理解できるだろう…と言うことで、家族揃って鑑賞した。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』は、北海道札幌市に在住していた男性の鹿野靖明(しかの やすあき)をモデルに書かれたノンフィクション『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』が原作。
物語の性質上、ネタバレOKかな…と思うので、ネタバレ込の感想です。
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 |
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監督 | 前田哲 |
脚本 | 橋本裕志 |
原作 | 渡辺一史 「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」 |
製作 | 石塚慶生(企画・プロデュース) 飯沼伸之 寺西史 |
製作総指揮 | 吉田繁暁 伊藤響 |
出演者 | 大泉洋 高畑充希 三浦春馬 萩原聖人 渡辺真起子 宇野祥平 韓英恵 竜雷太 綾戸智恵 佐藤浩市 原田美枝子 |
音楽 | 富貴晴美 |
主題歌 | ポルノグラフィティ「フラワー」 |
あらすじ
主人公鹿野靖明(大泉洋)は幼い頃より難病の筋ジストロフィーを患い、34歳になる今では体で動かせるのが首と手だけの重度の身体障害者。
鹿野は24時間365日、介助がないと生きていけない体にも関わらず、医師の反対を押し切って病院を飛び出し、自ら集めた大勢のボラ(ボランティアの略称)に囲まれて自立生活を送っている。
「いい話だなぁ…」と思いきや、鹿野は夜中に突然「バナナ食べたい」と言い出したりする我がまま男。
鹿野のボランティアとして働く医大生の田中(三浦春馬)はいつも鹿野に振り回されていた。
ひょんな成り行きから、鹿野の元を訪れた田中の恋人・美咲(高畑充希)もボランティアとして働くことになる。
鹿野は美咲に一目惚れしてしまい、田中は鹿野の代わりに愛の告白の手紙を書かされる。
最初は鹿野に反発していた美咲だが、鹿野やボラたちと共に時間を過ごす内に、自分に素直になること、夢を追うことの大切さを知っていく。
ところが……
大泉洋の熱演
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』は主人公が障害者だけどお涙頂戴にはなっていない。
主人公の鹿野は控えめに言っても嫌なヤツだ。
ヒロインが「障害者ってそんなに偉いんですか?」と言う言葉をぶつけるほど、自分勝手で我がままで他者への配慮に欠ける。
だけど鹿野は「愛しき実話」と言う副題の通り「とんでもなく我がままだし嫌なヤツだけど心の底から憎むことが出来ない」と言うキャラになっている。
これについては脚本の良さもそうだけど、鹿野を演じた大泉洋の力が大きかったと思う。
演技力云々…というところもあったけれど「鹿野は『水曜どうでしょう』の大泉洋が暴走したらあんな感じだよね」みたいな感じ。
障害者が生き難い日本の現実
主人公の鹿野は重度障害者だけど、ボランティアの力を借りつつ1人暮らしをしている。
日本では一般的に重度障害者は家族が介護するか、施設で生活するかが一般的。ひとり暮らしをしている人もいない訳ではないけれど、なかなか難しい。
私が学生時代、学校の授業でこんな風に教わった。
- 日本では他人に迷惑をかけず1人で生きる事が障害者の自立だとされているけれど、海外ではもっと考え方が進んでいる。
- 今の考え方では、他者の力を借りながら1人で生きる事が出来るのが障害者の自立であるされていて、障害者を支えるシステムがあるのが国として当たり前の姿である。
当時、この考え方に触れた私は衝撃を受けたし「言われてみれば、そりゃそうだ」と感心した。
だけど、実際は20年以上経った今も障害者が生きやすい社会になったとは言い難い。
日本ではまだ「障害者は人に迷惑をかけずに生きるべき」「障害者の介護は家族がやって当たり前」という考え方が根強く残っている。
「障害者とか関係ねぇし」みたいに思っている人も多いのだけど、実のところ重度障害者の介護問題は、老人介護にも繋がる問題でもある。
寝たきりになった老人が自宅で人の手を借りながら生きることが出来たら、介護殺人や介護自殺する人はいなくなるのだ。
……と書いみたものの、障害者だろうが老人だろうが、介護の世界は人手が足りておらず、重度障害者や寝たきりの人が自宅で1人暮らしをするのは難しい。
だからこそ、主人公である鹿野が目指した生き方は意味がある。
ただ脚本的に「鹿野バンザイ」が鼻について、観ていてモヤモヤしてしまったのも事実だ。そういうところは、ちょっと惜しい。
ヒロインの設定が酷過ぎる
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』は障害者が最後に死んじゃう系の話だけど、基本的には全編コメディタッチで楽しい作品に仕上がっている。
ザックリと感想を言うなら「なかなか面白かったですよ」って感じなのだけど、1つだけどうしても納得のいかない部分があった。
ヒロインの設定があまりにもクズ過ぎる…ってことだ。女性視点で観ると「これは可愛くても無いわぁ~」としか思えなかった。
- 教育大学の学生と偽って医大生とコンパをして恋人をゲット。でも、実はフリーター。
- 教育大学じゃないとバレて恋人に詰められて逆ギレ
- 上手くいかなくなった医大生の恋人と、障害者鹿野の間で揺れる乙女心
- 自分から鹿野の手を取って、おっぱいを触らせる
- 気のある風を見せておきながら鹿野の本気プロポーズを断る
自分を偽って恋人ゲット…までは、まあ分かる。
でも「恋人にバレて逆ギレはどうなんだ?」って話。
そして恋人と上手くいかなくなって、鹿野に心惹かれるのも、まあ分かる。
でも「鹿野の気持ちを知りつつ、おっぱい触らせといてプロポーズ断るとかどうなんだ?」って話。
これは脚本が酷過ぎると思う。ヒロインをこんな風に描く必要はなかったと思う。普通に可愛い子で良かったのではないだろうか?
相手が障害者だからとか、そういう事じゃなくて「人の恋心をもて遊ぶなよ」と言いたい。これについては小学校6年生の娘も同意見だった。
お涙頂戴じゃない障害者映画
障害者をテーマにした映画って、どうしてもお涙頂戴的になりがちなので、コメディタッチに仕上げた事については高く評価したい。
ただ「臭いものに蓋」ではないけれど、主人公鹿野をめぐる様々な問題には触れずに「鹿野スゲ~」に徹してしまったのは残念に思う。
「最高に面白かった」とは言い難いけれど、観た後に多くのことを考えさせられる良い映画だった。
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