講談社文芸文庫はありがたいなぁ。文庫化されていない名作を少しづつ出版してくれるのって、本好きにとってはホントにありがたい。
お値段は少々高めだけど、他では読めない作品も多いので、全然OK。
ただ「採算が取れているのだろうか?」と素人ながら心配だったりするけれど。
花筐・白雲悠々
10代の男女の純粋な魂を抒情豊かに描いた青春の饗宴「花筐」、戦後の混乱期の中で破滅へと傾斜する誇り高き男を描く「元帥」、類稀な作家魂で愛妻リツ子の死に迫る「終りの火」、戦後世相の中に無頼の生き方を浮かび上らせる「白雲悠々」など6篇を収録。
天然の旅情の指し示すまま、憧憬と彷徨の生涯を貫いた“浪漫的放浪者”檀一雄の特質を伝える短篇集。
アマゾンより引用
感想
短編集で、それぞれの話は独立しているけれど、私小説感の強い作品がいくつかあるので、これだけを読むより、むしろ『リツ子その愛・その死』や『火宅の人』の副読本として読むのがベターだと思う。
檀一雄が好きなら、外せない作品達だと思う。ちなみに私は大好きだ。無頼なところが、とても良い。
作者の魅力は「無頼」と「料理」がまず、頭をよぎるのだが「父性」というのも、忘れてはいけない要因だと思う。
私の中で父性を感じる三大作家の1人だったりする。あとの2人は森鴎外と重松清。
もっとも、森鴎外の場合は、作品から父性を感じるのではなくて、その子供達の手によって書かれた文章が沢山残っているからに過ぎないのだが。
重松清は優等生のお父さんという印象。
檀一雄の場合は、幼くして母(リツ子)を亡くした太郎と、脳性麻痺を患い寝たきり生活の末に幼くして亡くなった次郎との交わりに良い文章が多い。
女の子はあまり出てこないあたりが不思議だ。
作者の娘で女優の檀ふみは自他共に認めるほどの父親っ子だったことを思うと、男の子ばかりを可愛がっていた訳ではなさそうだけど。
私は「結婚したい」とか「子供が欲しい」という気持ちが比較的淡白な方なのだが「子を持つ親にしか分からない深い感情」に触れると、人並みに結婚して子供がいた方がいいのかな……と思ったりする。
収録されていた作品の中で『光る道』などは、ほとんど訳が分からなくてイマイチだったが、妻リツ子の最期を描いた『終わりの火』は秀逸だった。
表題作はまずまずといった印象。
個人的な好みになるが、檀一雄の作品は私小説か、食べ物エッセイが面白いと思う。
図書館で借りた本なのだが、買っておかなくちゃと思えほど読み応えのある1冊だった。