『海猫』は手放しでは絶賛出来ないのだが、かなり面白く読ませてもらった。
読み手をグイグイ引っ張る力のある作品だと思う。
上下巻なのだが、いっき読みしてしまうくらいには面白く、そこそこ読み応えがある。
世代を超えた物語というのも好感が持てるし、かなり熱の入った作品なのだけど、いかんせん突っ込みどころも多かった。
今回は感想を書くにあたり、激しくネタバレを書くので、ネタバレ嫌いの方はご遠慮ください。
海猫
女は、冬の峠を越えて嫁いできた。華やかな函館から、昆布漁を営む南茅部へ。
白雪のような美しさゆえ、周囲から孤立して生きてきた、薫。夫の邦一に身も心も包まれ、彼女は漁村に馴染んでゆく。
だが、移ろう時の中で、荒ぶる夫とは対照的な義弟広次の、まっすぐな気持に惹かれてゆくのだった―。
風雪に逆らうかのように、人びとは恋の炎にその身を焦がす。
アマゾンより引用
感想
ロシア人と日本人のクォーターであるヒロインが、漁村に嫁ぐ場面から、漁村の女になろうと努力を重ねつつ、夫との性愛に目覚めていく過程は、非常に細やかに書かれていて素晴らしいと思った。
こういう描き方は男性作家さんには無理なんじゃないかと思う。
女性の感性が発揮されてこそ……という印象。文句無しの百点満点。
ただ、ヒロインが義弟と恋に堕ちていくところは、書き出しが細やかだっただけに、大雑把な印象を受けた。
あまりにも唐突な展開だったし、何よりも心中するに至る過程は、ついていけなくて「いくらなんでも、それ、どうよ?」と突っ込まずにはいられなかった。
ヒロイン万歳な感じも度が過ぎていたように思う。
ヒロインの恋の話には、いささか腰砕けだったが、娘達の物語はかなり良かった。
「色々あったけど幸せを掴みましたとさ。めでたし、めでたし」なオチは実に爽やかで気持ちが良い。
結局人間は、どうあっても幸せになる努力をしなくちゃいけないんだよねぇ……なんてことを思ったりして。たとえ、みっともなく足掻いたとしても前に進もうとする人の姿は美しいものだ。
しかし安易に宗教を持ち出したのは、どうかと思った。
宗教を持ち出したことで作品が薄っぺらい印象を与えてしまったように思う。「ファッションとしての宗教」」と言うか、中身のないご都合主義の飾り物のように思えてしまったのだ。
面白い話の流れだっただけに残念で仕方が無い。
突っ込みたい箇所が多いのだけど、全体を通してみると力作と言っても良いと思う。
恋愛もので世代越えで、そこそこ長編で……って作品は珍しいので、そういう意味でお買い得な1冊だと思った。