地味な作品だった。とくに書き出しの凡庸さには溜息が出てしまうほどだった。
佐川光晴の作品を読むのは2冊目だが、最初に読んだものが良かっので期待した分だけ、ちょっと脱力。
吉村昭ちっくな職人さんになれるような物を持っていると思うのだけど、微妙に路線が違う感じ。個性がありそうでいて、なにげに没個性なんだなぁ……佐川光晴の文章って。
縮んだ愛
障害児学級教員の岡田は、働いていた小学校の卒業生・牧野に出会う。自分が受け持っていた自閉症児サトシを殴った過去を持つ牧野だが、彼につきまとわれて、岡田は毎週彼と酒を飲むことになる。が、ある日牧野は突然暴漢に襲われる。
物語にひそむミステリー性も話題になった、第24回野間文芸新人賞受賞作。(講談社文庫)
アマゾンより引用
感想
主人公は養護学級を担当する小学校教師。年齢は50歳。ものすごく普通の「おじさん」で良く言えばリアリティがある。悪く言えばツマラナイ人物。なんとなく隣に住んでいても不思議ではないような……そんな感じ。
障害児が登場するというのに、お涙頂戴に走らなかったのには感心してしまった。
どうして、そこそこ健康に生きている人間ってのは、障害者や病人に「理想像」とか「夢」のようなものを抱いてしまうんだろう?
確かにそういう要素はドラマティックなので、ついうっかり美化してしまう部分があるのは分かるのだけど、その押し付けがましさは決して誉められたものではないと思のだ。
それだけに、この作品がありがちな方向へ走らなかったことは評価できるのではないかと思う。
ただし、その美点が読み物としての面白さと結びつくかどうかとなると、まったく別の話なのだ。
「隣に住んでいそうなリアリティのあるオヂサンの話」を読んで面白いかと問われたら返答に困ってしまう。悪くはないと思う。悪くはないが何かを伝えたくてたまらない切迫感が感じられなかったのだ。
もしも佐川光晴自身が障害児教育に携わっていたなら、行間に色気の1つでも出てきたのかも知れないけれど。そう言えば私が面白いと感じた作品は、私小説の要素が強かったものなぁ。
「絶対的な弱者に対してしか発揮できない愛情」の愚かさや傲慢さを語る場面や、そこそこ頑張っているくせに熱中することのできない気だるさを描いていた部分については共感できるものがあった。
しかし、それは佐川光晴の考え方に同意したのであって「いい小説だったなぁ」と言うには弱すぎたのだ。
全体的にイマイチだったのだが「それってわかる」という部分もあっただけに残念な感じのする作品だった。せめてラストがキリッとまとまっていればなぁ。
ちなみにこの作品で1番気に入ったのは作品の内容と題名がピッタリ合っていて、しかも「上手いなぁ」と思わされたということだ。
言葉の最後に「愛」って文字を入れるだけで小説や映画の題名が出来るのだなぁ。愛って言葉は、やけに深い……と思った。