作者の愛犬の写真と、犬にまつわるエッセイ1冊にまとめた作品。
「私はある日、犬に埋もれて死ぬだろう」という一文に、やられてしまった。実際、作者は犬に埋もれて亡くなったのだろう。
この際「亡くなったのは病院では?」なんて野暮はいわないお約束。
本当は老女の死と犬をテーマにした写真小説を作る予定だったとのこと。作者はその執筆途中で彼岸の人になってしまわれたのだ。
犬に埋もれて
文章と写真で綴る急逝した作家と愛犬の日々
作家久世光彦と愛犬たちの長閑で賑やかな日々、そして著者の急逝で未完に終わった「犬たちの写真小説」。多数の写真とともに、作家と犬たちの心の通い合いを描く。アマゾンより引用
感想
「ホームドラマには犬が欠かせない」という話や「家族の中における犬の役割」の話が面白かった。
犬を飼ったことのある犬好きなら「そうだよ。そうだね。うんうん」と頷けること請け合い。犬好きの犬好きによる犬好きのための本だと思う。
檀ふみとの対談にあった「犬は子供。猫は恋人」という話も、なるほど納得。ほのぼの犬エッセイかと思いきや、そここに切なさが転がっているのが久世流の成せる技。
甘す過ぎないのが丁度良かった。
それにしても惜しい人を亡くしたなぁと今更ながら改めて思った。
御年に不足は無いのだし、仕方のない話ではあるのだけれど。久世さんとならデートしたい思うくらいに私は彼が大好きなのだ。
久世光彦は一緒に暮らしたい人というよりも、恋人にしたい人…って感じだ。
お洒落で頭が良くて、ちょっとヘタレで。でも、なんだか魅力的なのだなぁ。「粋」ということを知っている作家さんだと思う。
私には面白かったけれど、犬好きでない人が読んだなら「犬馬鹿の犬自慢本」に過ぎないのだろうと思う。
久世光彦の愛犬に対する思い入れは犬馬鹿そのもの。ファンからすると「その馬鹿っぷりが、また可愛いじゃないか」と思えるのだけど。
草臥れ気味の時に、美味しいお茶でも飲みながらパラパラとページをめくるのが相応しい1冊だと思った。