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OUT 桐野夏生 講談社文庫

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『OUT』を読んで最初に感じたのは「なんてリアリティに溢れ小説なのだろう」ということだった。

しかし、よくよく考えてみると私のような人間がこの作品に「リアル」を感じるなんてことはありえない話だ。

沢山の登場人物が出てくるが、私は彼らの誰とも似ていないし彼らの生活の一部だって知らない。

弁当工場で働いたこともなければ、カジノも知らないし、水商売に従事したこともない。孫や子供やロクでもない亭主どころか、結婚したことさえないのだ。

それなのに「リアル」を感じてしまったのだから不思議である。

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OUT

深夜の弁当工場で働く主婦たちは。それぞれの胸の内に得体の知れない不安と失望を抱えていた。

「こんな暮らしから抜け出したい」そう心中で叫ぶ彼女たちの生活を外へ導いたのは、思いもよらぬ事件だった。

なぜ彼女たちは、パート仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てたのか?犯罪小説の到達点!

アマゾンより引用

感想

たぶん私が感じたリアルは設定ではなくて、登場人物達の心情に対するものなのだと思う。自分が内に抱えている「獏とした不安感」を刺激されたと言うか。

登場人物達のように危険と隣り合わせたギリギリの生活を強いられている訳ではないが「ボタンを掛け違ってしまったが最後、どこまでも堕ちていくかも知れない」という意識が、必要以上に作品にのめり込んだ理由かも知れない。

もちろん作者の文章力の素晴らしさが、作品にリアリティを与えているのは言うまでもない事だけど。

ミステリー音痴の私が猿夢中で読んでしまったほど面白い作品だった。

あえてイチャモンを付けるなら、恐らく作者が書きたかったであろう作品の核になるラストの部分が、いささか唐突過ぎるような気がしたところぐらいだ。

登場人物の鮮やかさが、かえってアダになったように思う。

作品をと通して「うまいなぁ」と思ったのは、登場人物達の言葉遣いの汚さだった。

方言でもなく、くだけているのでもなく「荒んでいる」という感じが滲み出ていたように思う。

彼らの話す言葉は、つくづく「汚い」と感じた。荒っぽい言葉を使わなくても、言葉は汚く感じるのだということを発見して、ちょっと嬉しかった。

面白かったので読了した後で、もう1度流してしまったほどだ。

たまには苦手ジャンルの作品にも手をつけてみるものだな……とつくづく思った1冊だった。

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