作家、吉村昭の伝記本。作者の川西政明は作家ではなく文芸評論家とのこと。だからかも知れないが非常に読みにくかった。
「読み物」として読むのではなく「資料」として読んだ方がいいかも知れない。私はてっきり、吉村昭をモデルにした小説だと思って手に取ったものだから、読むのにかなり手間取ってしまった。
吉村昭
戦史小説、歴史小説、記録文学、純文学短篇で一時代を画した作家・吉村昭の初めての本格評伝。その誕生以前から逝去まで、本人126冊の著作、多岐に亘る関連文献に目を通して、吉村昭の手法で吉村文学を追跡する。
アマゾンより引用
感想
もっとも、吉村昭のファンなら読んでおくと良いかも知れない。
「読みにくい」と書いたけれど、吉村昭の作品自体、物によっては地味過ぎて読みにくい。
彼の作品…とりわけ戦記物のような記録作品的なものを愛する人なら、この本もさほど「読みにくい」というほどでは無いかも知れない。
何が辛かったかって、吉村昭が登場するまでの前振りが長かったのが私にとっては、いっとう辛かった。吉村家の系譜の説明からはじまるのだから、参ったのなんの。
ある人物を深く知ろうとするなら、そのルーツを知っておくのは重要なことだとは思うけれど「そこまで押さえなくても良いのでは?」と思うほど、丁寧に書きこんであった。
吉村昭が作品を書くために費やした取材について詳細に書かれていたのは面白かった。
「あの作品を書くのに、こんな苦労があったんだ」と言うような、製作裏話的な要素が良かったと思う。
もちろん、作品を読んでいることが前提となってくるけれど、吉村昭の人となりが滲み出ていたように思う。
また、彼独特の生死観のベースになるエピソードはファンとしては興味深かった。
吉村昭の独特な生死観は、吉村昭が肺結核を患ったことによるものかと思っていたが、それだけでは無かったのだ。彼の母、父、弟。身近な人の死に関わったことが、延命拒否に繋がったのだろう。
吉村昭は私が深く愛する作家なのだが、この伝記を読んで「こういうタイプの作家は、しばらく出てこないかも知れないなぁ」なんて事を思った。
昭和の人なのだなぁ。吉村昭は。
今後、彼の作品を深く味わうために、読んで良かったと思った。