吉村萬壱は相変わらず不愉快な話を書く人だな…と感心してしまった。(褒め言葉)
どれもこれも胸糞の悪くなる話ばかりなのに、不思議とクセになると言うか、なんと言うか。とてもじゃないけど、友達には勧められない話ばかりだった。
前世は兎
- 表題作を含む8篇からなる短編集。
- 表題作は7年間、雌兎として生きた前世の記憶を持ち、常に交尾を欲し、数々の奇行に走る女の話。
- 休職中の独身教師が「ヌッセン総合カタログ」を詳細に書き写す話等、地味に嫌な感じの作品ばかりが収録されている。
感想
8篇、全てが最高とは言わない。面白さにはバラつきがあるし、読み手の好みも左右すると思う。
私はダントツで表題作が面白いと思った。
表題作は題名通り、雌兎として生きた7年間の記憶を持つ少女の話。
この作品を読むまで兎生態なんて考えた事がなかったのだけど、兎は多産で「年中発情している獣はヒトとウサギくらいであるという」イメージから、性的誘惑のシンボルとされているらしい。
主人公の少女も前世が兎だけあって、性的に滅茶苦茶な生活を送る。
彼女のやっている事はクレイジーとしか思えないのだけど「前世が兎である」と言う設定なので「まぁ…兎だったんだから仕方ないか」と言う謎の説得力があった。
表題作以外だと『夢をクウバク』と『沼』が好み。どちらも悪夢を見ているような作品で、理不尽で気持ち悪くて最悪の読み心地だった。(これもあくまで褒め言葉)
それにしても吉村萬壱って作家の頭の中はどうなっているのだろうなぁ。
どれもこれも気持ち悪くて「よく、これだけ気持ち悪い妄想が湧いてきますよね」と、ただただ感心してしまう。
7篇中、どうしても受け入れられなかったのは、喉の違和感に悩む小説家を描いた『梅核』。
私自身、女性であると言うことと、娘を持つ母として「作り事とは分かっているけど、ちょっとなぁ…」と思ってしまった。ただ、これは男性が読む違う感想になると思う。
面白かった…と言えば面白かっただけど、個人的には『臣女』のような長編をそろそろお願いしたい。
吉村萬壱の作品は読むのが本当にしんどいけれど、別世界に引き込まれる感覚がクセになってしまうところが気に入っている。しかし短編集だと、別世界にワープした瞬間に現実に引き戻されてしまうので、ちょっと物足りないのだ。
この作品。面白いのに「是非、読んでみてください」とオススメ出来ないのが残念でならない。
胸糞の悪い系が平気な人なら大丈夫かも知れないので、興味のある方はどうぞ。