この週末はケーブルテレビで録画していた『そして父になる』を視聴した。
『そして父になる』は最近話題の是枝裕和監督作品。
是枝裕和の映画は『空気人形』しか観ておらず、話題になった『万引き家族』も観ていない。
しかし『そして父になる』は「新生児の取り違え」がテーマになっているとのことで、以前からずっと気になっていた。
今回の感想はネタバレ込みで書くのでネタバレが苦手な方はご遠慮ください。
そして父になる
そして父になる | |
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Like Father, Like Son | |
監督 | 是枝裕和 |
脚本 | 是枝裕和 |
出演者 | 福山雅治 尾野真千子 真木よう子 二宮慶多 黄升炫 ピエール瀧 田中哲司 國村隼 井浦新 夏八木勲 樹木希林 リリー・フランキー |
感想
「新生児の取り違え」って、たまにニュース等で知る事がある。
最近も50代の男性(取り違えられた子ども)の体験談を新聞か何かで読んだ。
最近の病院は管理体制がしっかりしているので、そう心配はなさそうだけど昔はちょくちょくあったとのこと。
この作品に登場する「取り違え」の舞台は「昔」ではなくて「今」の話。
- 片方の家族は東京のタワーマンションに住むエリート一家。(父は福山雅治)
- もう片方の家族は田舎の貧乏な電気屋一家。(父はリリー・フランキー)
取り違えと言っても、取り違えられた家族に格差がある場合は相当大変。子ども達はそれぞれ正反対の育てられ方をして6歳になる。
子ども達が小学校入学を前にして、取り違えが発覚。「さあ、どうしよう?」と言うことろから物語が始まる。
ちにみに取り違え事件が発覚すると、ほとんどのケースで「子どもを交換する」と言う選択を選ぶとのこと。
夫と2人で視聴していて「無いわぁ~。6歳まで育てて、交換とか無理だわぁ~」と大ブーイングだった。そして私が思わず言ってしまったのが「2人とも自分が育てるならアリだけと」って事だった。
もちろん、どの親も自分の子どもは手放したくないだろうから、そんな事が上手くいくはずがないは分かっているし「2人とも欲しい」なんは100%ありえない展開だ。
しかし、主人公の福山雅治は「2人とも欲しい」と相手の親に言っちゃう人だった。
まぁ…分からんじない…分からんじゃないけど「人としてどうなんだ?」って話だ。
この作品の中で福山雅治は「エリートだけど人の気持ちが分からないポンコツ」として描かれている。
一方、もう1人の父であるリリー・フランキーは「電気屋をしてるけど事実上ヒモ」みたいな駄目人間なのだけど、素晴らしい父親として描かれている。
要するにこの作品は「ポンコツエリートの男が家族の危機に直面して、遅々として成長していく物語」だった。
役者は上手いし、子役も可愛い。音楽も良いし、伏線の張り方も素晴らしい。
伏線と言えば冒頭部で福山雅治の子どもがピアノを練習している場面がある。
子どもが弾いているのは「メリーさんのひつじ」なのだけど、ピアノを習った事がある人なら「あれっ? この子、小さい頃から習っているにしては下手過ぎじゃない?」と違和感を覚えると思う。
そして次の場面。福山雅治が自分の実家を訪れた時に、隣の家の子が練習しているピアノが聞こえてくる。
福山雅治の父は言う「一向に上手にならない下手くそなピアノだ。いつまで同じ曲を弾いているんだ」と。
そして、また次の場面。福山雅治の子どもはピアノの発表会で簡単過ぎるほど簡単な曲で大失敗をする。続いて同じ年頃の子が上手に難曲を引きこなす場面。
エリートサラリーマンである福山雅治の子どもが「不出来な子」であることを、冒頭部からじわりじわりと浮かび上がらせてくるのだ。
ちなみに、この取り違え事件は、出産した病院の看護師が故意で新生児を入れ替えている。「エリート一家の幸せそうな姿が許せなかったから」というのが理由だった。
子ども達は「とりあえずお試し期間」みたいな形で、互いの家庭を行き来する事になり、結局「子どもを交換して実の子を育てようぜ」みたいな流れに落ち着くのだけど、ここから福山雅治が父になっていくターンがはじまる。
映画の中では「ところで、どっちの子を育てることになったのか?」については明言さておらず、ふんわり終わっているのだけれど、私は「血の繋がっていない子を育てる」という結末になったと解釈した。
細部まで丁寧に描かれた映画で、多くの映画賞を受賞したのは納得出来た。
それにしても、気になったのは「昔の取り違え事件ではほとんどのケースで実の子を育てる選択をして、子どもを交換した」と言う事実だ。
この映画は今の価値感で描かれているので「産みの親より育ての親」「血の繋がりより定の繋がり」を推しているけれど、作られる時代が違っていたら、違う結末になったのだと思う。
そう思うだけに不出来な子にイラつく福山雅治の演技や「人間の子も馬と一緒。結局は親に似るんだ」と言った福山雅治の父の言葉が恐ろしいと思ってしまった。
『そして父になる』は良い映画ではあるけれど、けっこう毒々しい物を秘めた作品だと思う。