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潮の呼ぶ声 石牟礼道子 毎日新聞社

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石牟礼道子は初挑戦の作家さん。

水俣病患者に寄り添って生きた作家として知らている作家さんで先日、亡くなられたと言うニュースを聞いて「そう言えば1冊も読んでいなかったな」と思い、手に取った。

本当なら代表作の『苦海浄土』を読むべきなのだろうけれど『苦海浄土』はありにも長編過ぎて、今の私は読み切る自信がなかったため、エッセイや講演記録が収録されたこの作品を読んでみることにした。

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潮の呼ぶ声

水俣の現在を視ていると、あらたな創世記が見えてくる。水俣の魂は、世紀を越えて、決して滅びない。1967~1999、大地と海の声を語り、水俣病を語って、日本の近代を問い続けた24編の記録を収録。

アマゾンより引用

感想

まず驚かされたのは文章の美しさだ。

重いテーマを追いかけてきた作家さんなので、さぞや重苦しいタッチなのだろうと身構えていたのだけれど、1つ1つの描写が非常に美しい。

表題作『潮の呼ぶ声』の一節をご紹介したい。

湯の浦や津奈木からの来る舟、丸島、茂道方面、あるいは天草あたりから来る舟が四、五艘行き交っている。夜明けの潮に乗った生きの良いエンジンの音が、だんだん柔らかくんってこちらの全身をくるみこみ、命の奥に眠っているものたちを促すように響く。

エッセイを読んでここまで美しい文章に出会うとは思ってもみなかった。

文章を読むだけで目の前に光景が浮かんでくるし、もしかしたら脳内に浮かんだ光景は実際に見る光景よりも美しいんじゃないかとさえ思う。

一節しかご紹介しないけれど、一時が万事この調子の美しい文章で「凄い作家さんなんだな」と感心させられた。

ただし、このエッセイ集。テーマがテーマなだけに読み切るのは相当しんどい。

水俣病については多くの日本人が授業で学んできたと思うのだけど、多くの人達が「四大公害病は…水俣病、‎第二水俣病 、‎イタイイタイ病 、四日市ぜんそく』とザックリした暗記で通り過ぎているのではないかと思う。

多少なりとも副読本等での知識は入れているかと思うものの、その本質について詳しく知っている人は少ないのではなかろうか?

少なくとも私は水俣病についてその程度の知識しか持っていなかった。

水俣病を学ぶための本としては素晴らしいい出来だと思うのだけど、重たいエッセイなので「是非、読んでください」とはオススメし難い。

それくらい読んでいて辛かった。

そして、石牟礼道子が人生をかけて取り組んできた仕事の大きさに頭が下がった。これは石牟礼道子が亡くなった時に新聞等で取り上げられるはずだと納得した。

世の中には自分が知らないだけで偉い人がいるものだな…とつくづく感じた1冊だった。

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