『ドール』は第52回文藝賞受賞作。
いじめられっ子の中学生がラブドール(昔風に言うとダッチワイフ)に恋をする物語だと噂に聞いて読んでみた。
人形に恋をする…だなんて設定、人形好きとしては素通り出来ない。
どんなに隠微で切ない物語が待っているんだろう……とワクワクしていたのだけれど、予想の斜め上の展開。嫌いじゃないけど、想像と違う方向の作品だった。
ドール
僕はユリカを愛していたんです。愛なんです。先生とか、クラスの連中には、わからない愛。僕は真剣でした。真剣なことを、気持ち悪いなんて言わないで欲しい。時代を超えて蠢く少年の「闇」と「性」への衝動。
アマゾンより引用
感想
言いたくはないけれど「人形に恋をする」と言うテーマよりも「いじめ」の方が大きなテーマになっている。
もしかしたら、作者的にはそうではないのかも知れないけれど、読者は主人公がラブドールに恋する特異性よりも、いじめを受けて歪んでいく主人公の心の揺れや中学生の残酷さの方が印象に残るんじゃないかと思う。
読み口も後味も最悪な作品。だけどこれは褒め言葉としての「最悪」だ。よくぞ、まぁこんなに上手く「いじめ」を描写したものだ。
わざわざ選んでいるつもりはないけれど、昨年から「いじめ」がテーマになっている作品との遭遇率がやたら高い。
そんないじめをテーマにした作品の中でも、この作品はレベルの高い方だと思う。
作者の山下紘加は20代女性。お若いだけに中学生のやり取りがリアルだ。ちょっと上手く説明出来ないのだけど、40代の私の頃のいじめとはやり口が少し違っていると言うか、空気感が描写に違うと言うか。
読んでいて本当に不愉快になる。(しかし、これも褒め言葉)
残念なのはせっかく出したラブドールが上手く活用されていないって事。正直、添え物でしかない。人形愛を知らない人が読めばそれなりに衝撃的だとは思うけれど、人形好きには通じない。
そしてもう1つ残念なのは「物凄く嫌な感じが上手く描けている」にも係わらず、本筋は意外と浅くてアッサリまとまっていると言う点。
ドロンドロンのグデングデンにやっちまって欲しかった。嫌な描写が上手いだけにラストがあっけなくて残念。
だけど山下紘加がどう成長していくのかとても興味がある。
文章が尖っていて好みなのだ。この描写力で濃厚な物語を紡ぐ事が出来たなら、けっこう化けるんじゃないかな……と思ったり。次回作に期待したい。