『女王様の電話番』は第174回直木賞候補作。題名からしてSMクラブの女王様を巡る物語なんだろうなぁ~と想像していたのだけど、色々な意味で「思ってたのと違う」という感じだった。エロス全開かと思いきや真逆だったのだ。
ちょい前の感想に「最近の直木賞は本屋大賞っぽい」って書いた気がするけど、『女王様の電話番』も直木賞候補作というよりも本屋大賞っぽい印象。私感で恐縮だけど、直木賞の権威性って下がってきているのかな? 本屋大賞との住み分けができていないような気がしている。
女王様の電話番
- 主人公の志川は新卒で入った不動産会社を辞め、SMの女王様をデリバリーする店の電話番として働き始める。
- そこで出会ったのが女王様の美織。志川は美織に憧れを抱くようになるのだけど、食事の約束を当日にキャンセルされたまま連絡が途絶えてしまう。
- いなくなった美織を探すうちに見えてきたのは、志川自身が知らなかった美織の別の顔と過去。そして志川は美織を追いかける中で、自分自身の恋愛や性への違和感とも向き合っていくことになる……
感想
「エロス」を全面に出してくる作品かと思っていたけど、エロスどころか色っぽい要素は皆無の作品だった。主人公の志川はアセクシャルの女性だった。
最近はセクシュアルマイノリティという言葉も浸透しつつあるけれど、自分以外の性嗜好を持つ人についての知識って知らないことが多い。実際、主人公の志川も自分がアセクシャルだということを認識するまで時間がかかっている。
「いまを生きる人達を描写する」という意味において性嗜好を持ってくるのは文学の方向性として良い試みだと思ったけれど、全般的に「軽いな」と感じてしまった。
物語の軸として「美織の失踪」があり、志川がいなくなった美織を探す中で自分の考えを整理していくのだけど、ふんわりミステリ要素を絡めてしまったことで本質がぼやけてしまっているように思った。
登場人物が全員揃いも揃って「結局普通の良い人ですよね」みたいな描き方にも違和感を覚えた。そもそも性産業を舞台にして性的マイノリティを描く……というのは難しいと思うのだけど、「人間社会の嫌な部分」は無かったことのように扱われている。
物語の意図するところは理解できるものの、最後までラノベのようなヤングアダルトのような雰囲気で「大人の読み物」としては弱い気がした。「大人の読み物として弱い」と言えば、主人公の志川は大卒で一流企業で働いていたっぽい設定なのに、社外に出してはいけない個人情報を平気で抜いてしまうなど、社会人としての常識がガバガバだったのも気になった。
大人の読み物として弱過ぎることを思えば直木賞を受賞できなかったのも納得できる。
テーマ的には面白かったしサクサク読み進めることはできたけれど物足りなさは拭い切れない。題名から連想させるイメージから思っていたのとは全然違う作品を読んだと言う意味では予想を裏切られた読書体験だった……と言えなくもない。



