芥川賞受賞作『バリ山行』がやたら気に入ったので松永K三蔵のデビュー作『カメオ』も読んでみることにした。
「カメオ」と聞いた時、私がイメージしたのは昭和の女性が身につけていたカメオのブローチだった。最近、とんと見掛けないけどカメオのブローチってあったよなぁ~と。
だけど本のタイトルの『カメオ』は人間&犬の名前だった。
カメオ
- 神戸の物流倉庫に勤める高見は新倉庫建設の工程管理を突然任されるが、隣地の男・亀夫(カメオ)が犬を連れてクレームをつけてくるので工事が進まない。
- しかし事態は一変。亀夫が突然死んでしまう。死後、高見は彼の犬を一時預かるが、引き取り手が見つからず、ペット禁止のマンションで隠れて飼うことにになった。
- 犬との生活で心境が変化する高見だが……
感想
『カメオ』は個人には大絶賛なのだけど、あくまでも「私の心に刺さった」ってだけで人としての属性が違う人には刺さらない作品だと思う。ちなみに『バリ山行』を読んだ時にもまったく同じ感想を抱いている。
物語の前半。人間の亀夫の描写がやたらリアルで嫌な感じだった。私の知っているクレーマーって本当にあんな感じなんだもの。独身時代は工事系の会社でCADオペレーターをしていたので、実際にクレーマー対応をすることはなかったものの多少なりとも知っている。知らない人は知らないと思うのだけどクレーマーって本当にあんな感じだ。
そして現在、隣の家の住人が近隣に知れ渡るクレーマーなので亀夫と高見のやり取りにいちいち共感してしまった。もうね…解像度が高過ぎるのだ。「そうそう!クレーマーってこんな感じですよね。分かります!」と首がもげるほど同意。
そして亀夫のターンからカメオのターン。
カメオと高見の関係もいちいち共感できたし、カメオって犬の魅力もリアルに伝わってきて最高だった。ブルテリアの入った雑種だなんて飼い難いに決まっている。ブルテリアって一時期「ブサ可愛い」と流行ったけれど本来は闘犬なのでペット向きの犬種ではないのだ。しっかりしつけをすれば従順だとのことだけど、そもそも初心者向けの犬じゃない。
ラストのヲチについては現代の犬の飼い方とか常識からするとNGでしかないけれど、私には理解できる気がした。だけど愛犬家だったら不愉快になっちゃうかもな…とも思った。ラストだけでなくカメオの扱いもそうだし最初から最後まで今の日本の犬にまつわる常識からすとるアウトって感じ。
もちろん今の常識からすると完全にアウトなのだけど昭和の頃に祖母宅で飼われていた犬はもっと自由だったなぁ…なんてことを思うと、あのラストはカメオにとって本当の幸せの形だったのかも知れないと思ったりする。
松永K三蔵の文章からは昭和に匂いがする。それはノスタルジーでもあるし、現在進行系で今ココに存在するものでもある。
正しいとか正しくないとか、良いとか悪いとか。そういう世界観で読んでしまうとアウトなんだけど、嫌いになれない何がかある。嫌いになれない…どころか、むしろ好き…みたいな。
松永K三蔵。意識的に追いかけていきたい。
