『坂の途中の家』は乳児を殺した母親の裁判で子育て中の専業主婦が裁判員として関わっていく物語。私は仕事柄、子どもの虐待とは無関係ではないので子育て関係の小説と知って俄然読みたくなって手に取った次第。
私はちっとも知らなかったけれどドラマ化もされていたらしい。確かにドラマ化しやすそうな作品ではあるなぁ~と思ったけれど、個人的にはあまりす好きになれない作品だったので、まあまあ感想は酷いしネタバレも含みます。
坂の途中の家
- 主人公の山咲里沙子は、夫と幼い娘と暮らす専業主婦。ある日突然、家庭裁判所から裁判員に選ばれる通知を受け取る。
- 彼女が担当する事件は生後八か月の娘を殺した罪に問われる若い母親の裁判だった。被告人の姿や証言は、里沙子自身の過去の記憶を強く呼び覚ますことになる。
- 幼い子を育てる中での孤独感や不安、夫との関係に潜む違和感など、被告人の言葉と自らの心情が重なり、里沙子は「普通の家庭」という自分の立場を揺さぶられていく。
感想
「前に読んだ角田光代作品って何だったっけ?」と確認したら、幼稚園のお受験とママ友がテーマの『森に眠る魚』だった。確かに角田光代は母親をテーマにしがちではあるけれど、どうやら私は角田光代の描く母親像が嫌いなのだと思う。たぶん性に合わないとか、気が合わないとかそんなノリ。
主人公の里沙子や我が子を殺してしまった母親の苦悩は私も理解できることばかりだったし、描き方は上手いと思う。頼れる実家のない初めての子育てって本当にキツイのは私にも理解できる。私は出産の時に里帰りしなかったし、実家の母は近くに住んでいるものの手伝ってくれるような人ではなかったので「1人奮闘する母親の苦悩」は痛いほど理解できた。
だけど、なんかこぅ…全面的に同情できるような女性ではなかったのだ。読んでいて何度も「いやいや。そうはならんやろ?」と漫才師のようにツッコミを入れてしまった。
そしてもっと納得いかなかったのが男性(夫)の描き方。なんだかSNSの夫(父親)を下げるポストと炎上を読んでいるみたいな安っぽさが鼻についてしまった。そして思ったよね。「いやいや。そんなクソな夫(父親)なら離婚すれば解決なのでは?」と。
夫への恨み言を言う子育て中の専業主婦は「でも離婚はできない。専業主婦が子どもと生きていくのなんて無理」みたいなことを言いがちだけど、そんなことはない。日本で生きているかぎり福祉制度をフル活用すれば母子が野垂れ死にすることはないのだ。夫をATMとして見ていて割り切って考えている人はまぁ良いとして。本気で夫が嫌なのに一緒にいる人のこと、私には理解できない。
「はじめての育児の大変さ」ってところだけは大いに寄り添うことができたけど、それ以外の考え方については納得いかないことばかりだったし、いくらなんでも男性の掘り下げが甘い気がした。
Xの炎上を読むのが好きな人には面白いのかも知れないな…とは思う。
『坂の途中の家』は小説としては嫌いな部類の作品ではあるけれど「裁判員裁判ってこんなものですよ」とイメージを掴む…言う意味では読んで良かったと思う。自分が選ばれていないので、今まで裁判員なんて他人事でしかなかったのだけど色々と考えるキッカケにはなった。
それはそれとして。私は今までそこそこ角田光代の作品を読んでいるけれど、よくよく考えてみたら嫌いな作品の方が圧倒的に多い。だけど、まれに「面白かった」と感じる作品に当たるのが不思議ではある。今回はワタシ的にはハズレだった。
今後は角田光代作品を手に取る時は「自分に合わないかも知れない」ってことを覚悟しておこうと思う。