『人はどう死ぬのか』は小説ではなくエッセイ本。久坂部羊は小説家で医師、在宅医療や終末期医療に携わってきた経験を生かした作品が多く、私にとって特別な作家の1人だ。
久坂部羊はこれまでも安楽死や尊厳死をテーマにした小説を多数発表してきたけれど『人はどう死ぬのか』は久坂部羊が生み出してきた作品のベースになっている考え方が書かれているので久坂部羊が好きな人なら読んでおいて損はないと思う。
そして久坂部羊に興味が無くても、読んで損はないタイプの本だと思ってる。
人はどう死ぬのか
- 題名の通り人の「死」をテーマにしたエッセイ集
- 在宅診療医として数々の死を看取った久坂部羊が人がどのような死を迎えるのかをリアルに描き、安らかな死を迎えるために知っておくべきことを解説する。
- 「死の教科書」とも言える1冊。
感想
『人はどう死ぬのか』は中年期以降の日本人全員に読んで欲しいと思えるような良作だった。ちなみにザックリした内容(章ごとの題名)はこんな感じ。
- 第一章 死の実際を見る、心にゆとりを持って
- 第二章 さまざまな死のパターン
- 第三章 海外の「死」見聞録
- 第四章 死の恐怖とは何か
- 第五章 死に目に会うことの意味
- 第六章 不愉快な事実は伝えないメディア
- 第七章 がんに関する世間の誤解
- 第八章 安楽死と尊厳死の是々非々
- 第九章 上手な最期を迎えるには
私はどちらかと言うと「人の死」について興味を持っているタイプだけど、だからって「人の死」について本格的に学んだ訳ではなくて、ふんわりした知識しかなかったので「そうだったのか!」と驚かされることが多かった。
例えば…だけど『人はどう死ぬのか』の中でしつこいほど繰り返されていたことの中に「医療は人の死をどうすることもできない」って話。心臓が止まった後に行われる心臓がマッサージ等の蘇生術は「儀式」でしかなくて「遺族が納得するための措置でしかない」って話。さらに言うなら、それは本人にとって苦痛でしかない…ってことも。
私も含めて中年期以降の人の多くは「出来る限り健康な状態で年を取りたい」と思っているし「死ぬ時は出来る限り苦しくない方が良い」と思っているけど、その辺のことを全否定していくスタンスは清々しくさえあった。
『人のはどう死ぬのか』を乱暴にまとめると、こんな感じ。
- 人間、死ぬ時は死ぬ
- 死に方は選べないから悩むだけ無駄
- 医療には限界があるから過度な期待すんなよ
- 楽しく生きた者の勝ちだぜ?
……茶化して書いてしまって申し訳ないけど、本質的には真面目な本なので安心して戴きたい。
実のところ私は作者の意見を全面的に信じた訳ではないけれど、少なくとも母達(実母&義母)に対して今まで以上に優しい気持ちで接することが出来る気がする。
70歳を越えた母達の場合、もう健康云々とかは気にしないで、楽しいことして美味しいもの食べて心穏やかに過ごして欲しいなぁ…と改めて思った。
高齢の親のことを抜きにして「自分はこれからどう生きるべきか?」って部分でも読んで良かったと思える作品だし、中年期以降の日本人全員に読んで欲しい。『人はどう死ぬのか』は幸せに生きるために、死を知るための1冊だと思う。