『罪の声』は昭和の未解決事件である「グリコ・森永事件」をモデルにしたミステリ小説。あくまでも「モデルにした」ってだけで、完全な創作物。グリコ・森永事件は私もよく覚えていて「キツネ目の男」の顔は40代後半以上の日本人ならほとんどの人が知っているんじゃないかと思う。
ちなみに塩田武士は初挑戦の作家さん。ミステリ作家ってことだけど、私はミステリ系はイマイチ得意じゃないので作風等はまったく知らずに手に取った。
罪の声
- 昭和の未解決事件である「グリコ・森永事件」をモデルにした作品。
- 京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つけた。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープには幼い頃の自分のに声が録音されていた。
- 俊也の見つけたテープは31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった。
- その頃、大日新聞社でも「ギンガ萬堂事件」の真相を追う企画がはじままっていた。
- 新聞記者の阿久津と俊也はそれぞれにギン萬事件の真相を追っていく。
感想
『罪の声』はグリコ・森永事件をリアルで知っている世代と知らない世代とでは感想が変わってくると思う。グリコ・森永事件をリアルで知っている世代ならそこそこ楽しめるかも知れないけれど、そうでない世代が読むとどうなんだろうか?
「未解決事件を追う2人の男」って設定は良いな…って思ったし「テープに吹き込まれた子どもの声と子ども達のその後」と言う目の付けどころは面白かったけれど、ちょっと色々盛り過ぎで取っ散らかってしまっている気がした。
- 社会への義憤と理不尽。
- 犯罪に巻き込まれた子ども達の人生と希望。
- 暴力団と金の問題。
ギン萬事件(グリコ・森永事件)は単なる企業脅迫事件ではなく、様々な要素が組み合わさったものだったと書きたいのは分かるけれど、それにしても盛り過ぎな気がした。自らは望まないのに事件に関わってしまった子どもの人生を書きたかったのは分かるけれど、ラストへの感動パートはなんかこう…取って付けたような印象を受けた。
「30年以上も前の話だし、もう時効になっているから…」と言うことで、行く先々で関係者がペラペラと打ち明け話をしてくれるのにも違和感があった。記者風情にそんなに簡単に話をしてくれるのなら、警察に口を割っていそうなものなのだけど。
設定は面白かったものの、私は最初から最後まで物語に入り込むことができなかった。
本を読んでから知ったのだけど、映画化されているそうなので映画版で見た方が面白いかも知れない。小説は色々と盛り過ぎたせいでやたら長くなってしまっているけれど、映画の場合は時間的に全部描いていたら収まらないだろうから、程よく端折っているのではないかな…と。
ミステリなのでネタバレは避けるけれど題名になっている『罪の声』の声の主達の扱いについては、なんかちょっとモヤモヤしてしまった。一応、ハッピーエンドの体になっているけれどツッコミたいところが多過ぎて。
なかなかの力作だとは思ったものの私の好みから大きく外れる作品だった。