三浦哲郎が自分のルーツについて書いた随筆集。
母や兄姉達への深い哀惜が込められている作品で、三浦哲郎を好きな人には是非ともオススメしたい1冊。
作者のルーツは小説『白夜を旅する人々』で語られているけれど、小説では語られなかった部分が語られていてとても興味深かった。
母の微笑
三浦哲郎は今年(2010年)鬼籍の人となられた。
私は老境に達してもなお自分のルーツについて書いていこうとする三浦哲郎の姿勢にグッっときてしまった。
人間は常に成長して変わっていくものだけど、生まれてから青年期までの時期って、長い人生の中でも人格を形成するのに重要な時期だだと思う。
一生を左右するような価値観が叩き込まれたりするのもこの時期だ。だからこそ自分のルーツを探るのは、人間にとって大切なことだと思うのだ。
それにしても壮絶な生い立ちだなぁ……と改めて思った。
三浦哲郎は兄弟がいるのだけどだけれど、2人が自ら命を絶ち、2人が失踪している。
その母の気持ちを思うと胸が痛くなる。
私が初めて『白夜を旅する人々』を読んだ時はまだ高校生だったのだけど、私も今は一児の母だ。
親にとって我が子を亡くすこと以上の不幸は無いってことくらい容易に推察できる。だけど、それでも人は生きていかねばならないのだ。
たくさんの哀しみを経験して、それでもなお天寿をまっとうされた作者のお母様の人生には胸を打たれる。
「それでも人は生きていかなきゃいけない」って事実は重たく、そして美しい。私も地に足を付けて、しっかりと生きていかなくてはなぁ……なんてことを思った。
派手さは無いけれど素晴らしい1冊だった。何かの折には再読したいと思う。