久しぶりに「ガツン」とくる小説を読んだ。スゴイ……凄すぎる。
アルツハイマー認知症の妻との夫婦愛を描いた作品なのだが、作者の青山光二がこの作品を書いたのは90歳の時だと言うから吃驚である。
お年を召した方の書かれた作品とは到底思えない力強さである。文章にも脂が乗っていて、枯れた匂いがしなかった。
吾妹子哀し
アルツハイマー型認知症で、妻の杏子は記憶を喪いつつあった。失禁や徘徊を繰り返し、介護にあたる夫の圭介を当惑させるのだが、齢九十を前にした夫は、老いた妻の姿に、若い日の愛の想いを甦らせていた。…おれは何とこの女を愛していたことだろう。今も愛は生きている。自分の愛に責任を持たなければ―。実体験に基づく究極の夫婦愛を謳って、川端康成文学賞を受賞した名篇。 Googleブックスより引用
感想
アルツハイマー認知症について書かれた作品は数あるけれど、有吉佐和子の『恍惚の人』に勝るとも劣らぬクオリティだと思う。
『恍惚の人』とは、まったくタイプが違うので較べることは出来ないけれど、なんと言ったら良いのか……アルツハイマー認知症という病気を描いているだけでなくて「文学」として、ちゃんと一本立ちしているのだ。これは、ちょっと珍しい。
若い頃の回想と、現在を取り混ぜるという手法も良かったし、何よりも主人公であろうと思われる作者と、妻の関係がたまらなく良い。
アルツハイマー認知症の人が出てくる小説を読むと、人格が崩れて行く過程に寂しさと哀しみを感じずにはいられないのだが、この小説に「寂しさ」は感じられなかった。
むしろ夫婦で生きていく「あたたかさ」のようなものを感じたほどだ。
認知症や介護問題を描きつつ、この作品の中で本当に際立っているのは夫婦愛だと主もう。
認知症が小道具になった小説で綺麗事でもなく、夢見がちでもなく、それでいて「気持ちよい」と感じさせてくれる作品なんて滅多にないと思う。
これは吃驚だった。何度も読み返すに値する作品だと思う。